「卯の日詣り」

 
あらすじ 船場の大店の旦那、年を取るごとに背中が曲がり、住吉さん反り橋のように丸くなってしまった。今は風流と趣味でゆったりと暮らしている旦那のところへ、回り髪結いの愛嬌者、町幇間(まちだいこ)同様で人気者の「磯村屋」、ちょっと男前の磯七がやって来た。

 磯七は庭で植木いじりをしていた旦那を住吉さんの卯の日詣りに誘う。旦那「どうせお参りの後はどこぞに上がって一杯のむのやろ。・・・いつもお前ばかりもてて、わしゃ放ったらかし。そいで勘定はわしや。もうそんなアホな話はこりごり、家で芋でも食うていたほうがましや」と、すねてつれない。

 磯七は女中のお清どんが鍋で炊いている洗濯用の糊や梅干し、砂糖、綿などを混ぜて顔に塗って、「エヘヘヘヘ、お清どん、どないだ」、「まあ、嫌だ。けったいな顔、まるでかったいやがな」
磯七「これなら女はそばに来まへんやろ」、旦那も面白がり、せむしとかったいの奇妙な二人連れが住吉さんに向かった。

 道を通る人はみな磯七の顔をジロジロ見て、旦那の背中を見る。「・・・どうぞ一文・・・」と近寄って来た乞食の子どもは怖がって逃げ出す始末だ。

 住吉大社の参詣を済ませ、一見茶屋の並ぶ裏手へ入って行く。店々の女子(おなごし)が客を引いている。「・・・ちょっとお梅ちゃん。むこうから可愛いらしいせむしが来やはるで、・・・その後ろからついて来る人の顔・・・」、お梅「まあ、嫌だ、かったいや・・・」、がちんときた磯七は尻込みする旦那を引っ張って、お梅の店に上がる。

 お梅は旦那のそばに座って磯七には見向きもせず酒の酌もしない。お造りが出て来て「・・・おい、わしにもよそてえな」、お梅「こんな脂のきついのん、お身体に障りまっせ。刻み昆布か麩(ふ)でももろてあげまひょか」と、冷遇ばかり。さらに、「・・・大体あんたら住吉さんなんかにお参りするのやかて間違うてまんねん。お四国さんへでも回って来はったらよろしねん」と、差別発言の説教だ。

 むっときた磯七が、「こっちへ来い」と、腕を引くとお梅は、「何をしはんねん」と、割り箸で磯七の顔を引っ掻いた。頬を手で押さえて磯七は料理場へ降りて鏡を見ると、なるほどこれはやり過ぎのひどい顔、嫌がる板場からたらいを借りて顔を洗って鏡を見て、やっと人並以上の顔に戻ってひと安心。

 磯七、とんとんと二階へ上がって、「へい、旦那、お待っとうさんで」
お梅 「まあ、お連れはん、えらい遅うおましたこと、旦さん最前からお待ちかねで・・・」

磯七 「最前から来てるわい」、お梅は磯七の顔を穴のあくほど見回して、

お梅 「あれまあ、さっきの顔こしらえもんだしたんかいな」

磯七 「こしらえもんやないわい。お前の割り箸でミミズ腫れがでけてるやないかい」

お梅 「えらい、すんまへん。・・・今日という今日は見事にかかりましたわ、まあ照れくさ・・・。もうし、こっちゃの旦那はん」

旦那 「なんじゃい」

お梅 「あんたも早う、背中のいかき(・ざる)出しなはれ」


 
    
     回り髪結い
  


桂米朝の『卯の日詣り【YouTube】



住吉大社





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