★あらすじ 幇間の一八は客をかついだり、一杯食わせたりするのが得意で大好き。客の方でも腹は立たないが、「しもた、まただまされたか」と、悔しがっていることばかり。
なんとか一度、一八をぎゃふんと言わせてやろうと考えた旦那、一八や芸者連を引き連れて鶴の茶屋に向かった。歩きながら、
旦那 「一八おまえは昔、下関の稲荷新地にいたことがあるんやて?」
一八 「へえ、あの時分はあっちでは大阪の人、上方者ちゅうてようもてましたわいな。女子(おなご)にも一苦労させましてな」
旦那 「お前のこっちゃ、そうやろな。・・・すまんが、わしちょっと用事があるさかい、みなで先に行っといてんか」と、一人残った旦那、道端で子どもを抱いた女のお菰さんに、お金をやって、
旦那 「わしの言うことを聞いてくれへんか」
お菰さん 「こう見えても、わたしには亭主がある身体・・・」
旦那 「違う、違うがな。なにもお前さんを口説こうなんて・・・そならご亭主に話しよう」と、橋の下に行って、
旦那 「一ぺん、生意気な幇間を調伏(ちょうぶく:上方の遊里言葉で人に一ぱい食わせる、人を引っ掛ける)にかけたいのや。ちょいとおかみさんを貸してはくれへんやろか」、亭主のお菰さんも金もらって承知、女のお菰さんに段取りを話すと、「これでも昔は旅芝居の役者やっていましたんや。きっとお役に立ちまっしゃろ」と、自信たぷりで大乗り気。
さあ、旦那は鶴の茶屋に急行し、みんなとワイワイと遊んでいると、店の女中が、「下に一八さんに会いたいと言う女の人が来やはってますけど・・・」
旦那 「ここへ通し、お通し」で、上がって来たお菰さん、「まあ、一八さんあんたという人は・・・」
一八 「知らん知らんでこんな女・・・」
旦那 「おまはん、どこから来なはった」
お菰さん 「わたし下関から・・・」
旦那 「ほな、最前聞いたのと話が合うがな」
お菰さん 「わたし、お茶屋の娘で芸者に出とりました。この人といい仲になって夫婦約束をし、子どもまで出来ましたが、いつの間にか店まで売り払って逃げてしもうた。わたしは子どもを抱いて苦労に苦労、尋ね尋ねてここまでやって参りました・・・」と、涙ながらに臭い芝居。
旦那 「そりゃあ無理もない話だ。わしが仲に入ってここで盃ごとでもしようではないか。なあ一八」
一八 「そな、殺生な。わてほんまにそんな女知らんで」
旦那 「男のくせして往生際の悪いやっちゃ。おかみさん、ここはわしにまかせて今日のところはこのまま帰っておくれ」
お菰さん 「ええ・・・そやかて何ぞしるしに確かな物をもらわんと、この人また逃げるよって・・・」
旦那 「なるほど、一八、あの大事にしている羽織をやれ」
一八 「そ、そんな殺生な、あれは有名な先生に描いてもろたんで、裏だけでも五百円や六百円の値打ちもんでおますがな」
旦那 「ぐずぐず言わんと、この薄情者。おかみさんの苦労を考えてみい」、「おかみさんなんて・・・」と、一八は泣く泣く羽織を渡した。
お菰さんの帰ったあと、
旦那 「へへっ、一八、今日は一杯かかったやろ。わしがお菰さん連れて来て、芝居さしてんや。おい、みんな今日は胸がすっきり、溜飲が下がったな。・・・けど、一八、後生大事にしていたあの羽織をようやったな」
一八 「へえ、どうも様子がおかしいと思たんで、旦さん、あんたの羽織を渡したんや」
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