「禍は下」

 
あらすじ 船場の商家の旦那、「仲間うちの寄り合いで天満橋から船を仕立てて夜網を打って、獲物を網彦加賀伊あたりで料理さして一杯やろうというのじゃ」
内儀 「ほならお帰りは遅(おそ)なりますなあ。お供はどうしましょう」
旦那 「定吉にしておくれ。帰りの土産用に風呂敷を持たしとくように」と、旦那と定吉は店を出る。

定吉 「旦さん、こっちは天満橋ではおまへん」
旦那 「黙ってついて来い。網打ちは嘘じゃ。お孝の所へ行くのじゃ」と、お孝さんの家へ直行する。

 お孝さんの家で、定吉も相伴させて酒と魚屋にあつらえた料理で飲んでいるうちにけっこう酔いが回って来た旦那。お孝さん「もう、(はかま)はお脱ぎのなったらどうでおます」

 旦那は今晩はここに泊まると決めて、居眠りをしだした定吉に、「・・・その羽織と袴持って帰るように」
お孝 「定吉とん、羽織たたんでおくれやす。私はこの袴をたたみますよって」
旦那 「定吉、家に帰って旦さんはお仲間と獲った魚を網彦で料理して、お酒になって夜明かしなるやろうというので、私は先に帰って参りましたと、言うのやで。この一円魚屋で網でとれたもんを買うて、お土産じゃと言うで持って帰んなはれ」

定吉 「この一円、みなお魚買わななりませんか」
旦那 「まあ、みつくろいでいいがな」、「ほな、おつりは」、「お前の小遣いにしなはれ」、「ほたら、魚二十銭で・・・」、「阿保なこと言うのやない。家へ帰ったらあんじょう上手に言うのじゃぞ。下々の者がうっかりしたことを言うたりしたことから事がばれる、禍(わざわい)は下(しも)からと言う言葉があるねん」

 定吉は羽織、袴を包んだ風呂敷包みを持ってお孝さんの家を出る。遅くまでやっている魚屋に寄って、「網でとれた魚欲しいねん」、「うちは、みな網でとれた魚やがな」、定吉は目刺し、チリメンジャコ、かまぼこを買う。むろんおつりはしっかりと計算してがっぽり小遣いに残すことに抜かりはない。

 店に帰った定吉、旦那から小遣いをもらっているし、禍は下なんて言われないようにお内儀さんに「天満橋から船に乗りまして・・・お酒になって夜明かし・・・私は先に帰って参りました」と、すらすらと澱みなく喋り、羽織と袴の風呂敷包とお土産を前に出した。

 目刺しにチリメンジャコにかまぼこを見た内儀さん「・・・ようそんなアホなこと言うな。・・・旦那さん、ほんまはどこに行きはったんや、正直に言いなはれ」、それでも定吉は旦那への義理立てか、男同士の約束からか、「・・・獲った魚を持って帰る途中で犬が飛びついて来て、魚をくわえて逃げて行てしもたんで、川筋のお魚屋で買うて来たんですねん」

 そんな嘘はすぐに見抜いた内儀さんだがさらに、「これは誰がたたんだんや。この羽織は定吉、お前やろ。こんなに不細工にたたんであるがな。こっちの袴はきちんとたたんで、紐の扱いやなんピシッとしてお前にはできやしない。この袴はだれがたたんだんや」

 それでも定吉「いや、あの・・・これ、わたいが」、内儀さん袴をバラバラにくずして「さあ、もう一度きちんとたたんで見なはれ」と、たたみかける。ついに定吉は白旗、降参して「お孝はんがたたんだんで」

内儀 「・・・やっぱりお妾(てかけ)さんか、うすうす私も分かってはいましたが・・・」

定吉 「ああ、やっぱりバレてしもた。お妾さんのこと、何で分かりました」

内儀 「この袴のたたみようで分かったんやがな」

定吉 「ああ、やっぱり旦さんの言やはったとおり、禍は下からや」


 
  
  落語『権助魚






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