「山崎屋」


 
あらすじ 吉原を北国(ほっこく)、遊女三千人御免の場といい、花魁(おいらん)を三分で買うと新造がついたという時分のお噺です。

 日本橋横山町三丁目の鼈甲(べっこう)問屋山崎屋の道楽息子の徳次郎。番頭の久兵衛に三十両を用立てしてくれとせがむ。そんな大金はとても無理と断る番頭に、徳さんは店の金をごまかして回してくれとしつこい。番頭はこの店に奉公してから一文たりともちょろまかしたりしたことはないと声を張り上げ突っぱねる。すると徳さんは方向を変え、お前は小綺麗な家に年増の女を囲っているだろう。その金はどうしたんだと責めてきた。

 番頭は「石橋の上で転んで頭をぶつければ橋の方が痛がる」ほど堅い男だと白を切るが、徳さんは自分の足で突き止めた動かぬ証拠を突きつけ、「お父っあん!番頭の久兵衛が・・・」と大声を張り上げた。慌てて徳さんの口を塞いだ番頭は、あれは姉の亭主の妹だなんて白々しい逃げ口上を言うが、騙されるような徳さんではない。

 ついに観念した番頭は三十両は用立てるが、何に使うのか聞いてきた。徳さんはもちろん吉原の花魁の所へ行って遊ぶ金だと悪びれた様子もない。番頭は三十両、一回きりで終わる話でなく何度も繰り返されては、いずれ大旦那に知れてしまうは必然と、何かいい方策はないかと思案する。

 番頭「その花魁は、確かに若旦那に惚れているんですか?」、徳さん(当たり前という風に)「ああ」、番頭「その花魁と夫婦になれたらお道楽は止むんですか?」、徳さん「そりゃ当たり前だよ。惚れた同志で夫婦になったら、頼まれたって道楽なんぞ出来やしないよ」、番頭「それならばあたしが骨を折ってお二人を夫婦にいたしましょう」、そんな甘いこと親父が承知するわけがないと、馬鹿にして一笑に付す徳さんに、番頭は策略の筋書きを披露する。そしてその段取りどおりに事を進めて行く。

 しばらくして番頭はどこからか都合した金で、吉原の花魁を親元身請けというようなことで請け出して、町内の鳶頭(かしら)の家へ預ける。番頭は晦日(みそか)の丸の内の赤井様の百両の掛取りを手の離せない用事が出来たといって、渋る大旦那を説得して徳さんに行かせる。徳さんは集金した金を鳶頭の家に預けに来る。花魁に会いたがる徳さんだが、鳶頭は今が肝心な時だから我慢しなさいと説き伏せる。

 店に戻った徳さんに大旦那は安心して喜んで、「どうもご苦労ご苦労・・・・お金はいただいて来たのか」、徳さん「へえ、このとおり」と懐に手を入れ探すふりの大芝居だ。大旦那「・・・どうした、落としたのか」、徳さん「・・・さっきチャラーンて音がした時・・・」、大旦那「馬鹿!どうも呆れて物が言えねえ・・・」と怒り始めた時、手筈どおり鳶頭が入って来て、山型に二の字の山崎屋の印の財布を拾ったと言って差し出す。

 鳶頭が帰ったあと、大旦那は番頭に、「財布は落しはしたが徳も改心した様子だがらそろそろ嫁を取らせよう」と言い出す。それは好都合の番頭「まずは財布を拾って届けてくれた鳶頭のところへお礼に行くのが筋」と言い、礼ににんべんの二分の切手と十両の目録を持って行くように勧める。番頭は鳶頭はにんべんの切手だけ受け取るだろうというが、大旦那は両方とも取られたら大損だ、なんてケチ臭いことを言っている。この位でなければ大店の主人はやって行けないだろうが。

 鳶頭の家に行った大旦那、番頭の言ったとおりに鳶頭は切手だけ収めて大満足。鳶頭と話していると綺麗な娘(花魁・お花)がお茶を持って入ってきた。鳶頭は女房の妹で長いこと屋敷奉公していたが、そろそろ縁づかなきゃならないという。大旦那は姉妹としては随分と器量が違うと思ったが、そんなことより、持参金が五百両、箪笥、長持ちが5棹が気に入った。大旦那「早速だが、うちの徳にどうだい。もうすっかり改心して安心だ。持たせるものは早く持たせた方がよかろう・・・、徳がいけなきゃあたしがもらう」なんて舞い上がってしまった。

 万事計画どおりにとんとんと進んで、晴れて徳さんとお花(花魁)は夫婦となった。夫婦仲もよく商売にも励み、安心した大旦那夫婦は裏へ隠居所を建てて移った。

大旦那が嫁(お花)を呼ぶと、

嫁さん 「なんざます」
大旦那 「別に用てえ事でもないが、お茶でも入れてもらおうかと。・・・こないだ床屋でお宅のお嫁さんはどこのお屋敷づとめだったのかと聞かれたのだが」

嫁さん 「あの・・・北国(ほっこく)ざますの」

大旦那 「うん 北の国、加賀様か、百万石のお大名だが、ご家来も大勢だろうが、お女中なんぞも多いのだろう」

嫁さん 「あの三千人ざますの」

大旦那 「うぅーん 三千人・・・たいしたもんだ。参勤交代の道中はするのか?」

嫁さん 「はい、道中はするんざますの」

大旦那 「ほお、お駕籠でか」

嫁さん 「あの・・・駕籠乗り物はならないざますの。高い三つ葉の駒下駄でざますの」

大旦那 「そりゃ歩きにくいだろ。まあ女の旅だから朝は遅く立ち、夜は早く宿へ着くのだろ」

嫁さん 「なんの、暮れ方に出て、最初伊勢屋へ行って尾張屋、大和の長門の長崎・・・・」
大旦那 「おいおい待ちなよ。男の足だってそんなに歩けるもんじゃない。伊勢へ行って尾張へ行って・・・・ははあ、よく人には憑き物がつくという。諸国を歩くが六十六部、足の達者が飛脚屋と・・・、うん、そうかお前には六十六部に天狗がついたろう」

嫁さん 「いいえ、三分で新造がつきんした」


   
        




江戸新吉原八朔白無垢の図 (「大江戸データベース」)



 立川談志の『山崎屋【YouTube】




日本橋横山町 《地図
昔からの問屋町で落語にもよく登場する。
今は衣料品店街となっている。

343




表紙へ 演目表へ 次頁へ
アクセスカウンター