「欲の熊鷹」

 
あらすじ 鰻谷の通りを歩いて来た二人、すれ違う時に下に財布が落ちているのに気づく。
甲 「財布が落ちてまんなぁ」

乙 「財布でんなぁ。あんた拾いはったらどうです」、「あんた拾い・・・」、「あんた拾い・・・」で結局、

甲 「この財布拾ろてお金入ってたら、半分ずつちゅうことにしまひょか」という事で交渉成立。

乙 「何ぼ入ってます、五百円?」

甲 「桁が違(ちゃ)います。五円札一枚、半分は二円五十銭ということで・・・わたしちょっと細かいもんの持ち合わせがおまへんねが、あんた細かいもん持ち合わせおますか?」

乙 「わたしも細かいもん持ち合わせおまへんねん」

甲 「どこぞで五円替えてくれるとこあったらよろしのになぁ・・・」、そばの家から若い女が出て来て、

町家の女 「あのぉ、先程から聞いとりますとお困りのご様子ですけど、何でしたらわたしの方で両替さしていただきましょか?」

甲 「この人に二円五十銭渡さんなりまへんねん。細かいもんが無いので困っとりましたんで、両替していただけまっしゃろか?」

町家の女 「承知いたしました」、女は五円札受け取って家の中に入った。

乙 「えらい別嬪さんでんなぁ」

甲 「ここの家(うち)の構え、今のお方の化粧の仕方、着物の着こなし、どお見てもただもんやないと思いますなぁ」

乙 「すると曲者でっか?」

甲 「そやおまへん、わたしの勘ではこちら妾宅、お妾(てかけ)さんの家やと思いまんなぁ」

乙 「やっぱし、そうだすか。歳はいくつぐらいで?」

甲 「そうでんな見るところ二十七、八やないかと・・・」

乙 「 そんなとこやろやろけど、化粧落としたら三十五、六、朝起きはった顔は四十五、六・・・旦那ちゅうのは船場の大店の大旦那で、歳の頃は六十二、三、でっぷり肥えてちょっと髭生やして眼鏡かけはって・・・」

甲 「そんなこと、あんた分かりますか?」

乙 「この旦那が来るとチンが一番先に気づいて出迎えますわ。それで女中のお竹さんが出て来ますんや・・・ちょっとあそこ見てみなはれ。ちゃ~んと犬がこっち見てまっしゃろ、やっぱりチンですわ、わたいの勘がぴったし当たってまんねん・・・チン来い!タマ来い」

甲 「何ですねん、そのタマちゅうのは?」

乙 「チンの名前ですがな。わたいが呼んだら来まっせ。タマ来 い!チン来い!チンよ、タマよ、チンタマよ」

甲 「あんたなに言うてまんねん」

乙 「ほぉ~れ来ましたろ。可愛いもんでっしゃろ。 ・・・もしあんた、何ぞ食べんもん持ってなはれまへんか?」

甲 「そんなもん、持ち歩いておまへんやがな」

乙 「そうやろな、・・・ほな、この袂糞でも食わしたろ・・・」

甲 「そんなもん食わせよって・・・あぁ、可哀そうにくしゃみして、もがいてるがな」

乙 「こら、くしゃみなどせんで三辺回って、ワンと言え」、なんて犬に向かって無理難題を言っている。 

甲 「それにしてもえらく待たせまんなあ」

乙 「こらひょっとして五円持って裏から逃げたんと違(ちゃ)うやろか」

甲 「そんなアホなこと、これだけのうち構えてて、五円やそこら持って逃げたりしはりますかいな」

町家の女 「えらい長いことお待たせいたしまして、わたしのところにもあいにく細かいのが無かったもんですから、よそへ両替にやっとりまして、えらい遅なりまして・・・」

甲 「いえいえ、とんだ御手数をおかけして相済まんことで・・・」

乙 「あのお女中さんはお竹さんでしゃろな」

町家の女 「お梅です」

乙 「ほな、このチンはタマちゅう名前で・・・」

町家の女 「いいえ、クシャです。・・・ほんだらここに一円札で五円ございます。これ二円をあんさんに、、この二円はあんさんにお渡しいたします」

甲 「こらどうも恐れ入ります。頂戴いいたします。・・・あと一円残りますなぁ・・・」

町家の女 「へえ、この一円へ、わたしの方からもう一円足しますと、ちょうど二円になりますなぁ」

甲 「へぇへぇ、二円になります」

町家の女 「これはわたしが、手数料に頂戴いたします」



  








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