「雪てん」(雑俳)


 
あらすじ 横町の隠居の所へやって来た熊さん、「ご隠居は毎日何もしないで退屈でしょうね」、
隠居 「退屈しのぎにを詠んでいる。初雪や・・・」

熊さん 「ああ、あれですか。初雪やきゅうり転んで河童の屁ってやつ」

隠居 「そんな句があるかい。初雪や何が何して何とやらと、見たとおりのことを言えば、それで句になるんだ」

熊さん 「じゃあ、初雪や方々の屋根が白くなるてえのはどうです」

隠居 「見たさま過ぎるね、少し色気をつけて、初雪や瓦の鬼も薄化粧」とか、雪を言わずに雪を連想させる、猿飛んで一枝青し峰の松”」とな。また手近で一句やろうと思ったら初雪や狭き庭にも風情ありと」

熊さん 「あっしのとこは庭はねえから、初雪や他人(ひと)の庭ではつまらない

隠居 「初雪や犬の足跡梅の花」

熊さん 「初雪や馬の足跡お椀四つかな」

隠居 「初雪やと言ったら後へかなとは言えないんだ。初雪や(雪の朝)二の字二の字の下駄の跡、これはすて女という女の子が六歳の時に詠んだ句だ」

熊さん 「初雪や一の字一の字一本歯の下駄の跡、これは行者の歩いた跡だ」

隠居 「そんなのは駄目だ。雪の日に坊主転んで手毬(てまり)かな

熊さん 「雪の日に大坊主小坊主一緒に転んで頭の足跡お供え餅かな」

隠居 「頭の足跡ってのは駄目だ。初雪は積もるほどは降らないから初雪やせめて雀の三里まで初雪や子供の持って遊ぶほど

熊さん 「初雪や塩屋転んであっち舐めこっち舐め初雪やこれが砂糖なら大儲け初雪やこれが塩なら・・・

隠居 「金儲けなんてのは俗でいけない。雪の日やあれも人の子樽拾い

熊さん 「あっしのは雪の夜やせめて玉だけ届けたい」、「何だいそれは」、「大雪で吉原の女のとこへ行かれない。閑(ひま)でお茶を挽いているだろうからせめて玉代だけ届けてえ、情があるでしょう」

客 「ええ、御免ください。根岸の如月庵から参りました者で、先日頂戴した獣詠み狂歌ができましたので、不出来ではございますがご覧くださりますように」

隠居 「わざわざ恐れ入ります。では早速拝見いたしましょう。子鼠が阿漕にかじる網戸棚たび重なりて猫に挟まれ」、なるほど結構ですが、ちとにはなりませんな」、「ぽんぽんが痛いと嘘を月の夜に鼓の稽古休む小狸、面白いですが天にはなりませんな」

熊さん 「えぇー、初雪や・・・・」

隠居 「熊さん、ちょっと待ってておくれ」、「ええと、お次は深山路は人も行かねば徒(いたずら)に憂し年月を送る狼 なかなかですが天にはなりかねますな」

熊さん 「えぇー、初雪や・・・・」

隠居 「待っておくれよ熊さん、今すぐだから。お次は狩人が鉄砲置いて月を見ん今宵は鹿(確)と熊(隈)もなければ、よくできておりますが天にはなりませんな」

客 「恐れ入りました。ではこれをどうぞ」

隠居 「狐をば野干(薬缶)というは茂林寺分福茶釜狸なりけり飼う人の恩を魚の骨にまでよく噛み分けて門(かど)守る犬、うぅーん、これも天にはなりませんな」

熊さん 「初雪や二尺余りの大鼬(おおいたち)この行く末は何になるらん」

隠居 「うん、これなら天(=鼬)になるだろう」






「深山路は・・・」と、「飼う人の・・・」は蜀山人の狂歌というからにならないのはおかしいが、サゲにつなげるためだろう。
この噺は別名で「雑俳」ともいう。


       


分福茶釜・狸のやかん?(茂林寺)
千人同心日光道⑥





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