★あらすじ 大阪から堀越村へ今日中に手紙を届けることを頼まれた男。峠へさしかかり茶店の婆さんに尋ねると、
婆さん 「何かいな、あんさん堀越村へ行きなさる? こっから向こうに池見えるじゃろ。水子池ちゅう池じゃがな」
男 「あぁ、あの池、みずごいけ? 何でそんなおかしな名前付いたんや?」
婆さん 「ずいぶんと前かたの話じゃが、この辺りの村は貧しゆうて水子を弔いするてな、そんな余 裕ありゃせんやった。 みな人知れず、あの池へ沈めましたんじゃそな。それから、あの池の辺りを日が暮れに通
りますとな、池の中から”ホギャ、ホギャ、ホギャ”というよな声が聴こえたりな、子どもがあの辺りで遊んでますと友達欲しがりますのじゃろ、その子どもを池ん中へズルズルズルと引きずり込む、 ちゅうよな話ありましてな、誰言うとなく水子池てな名前が付いてますのじゃ。こっから西へ行く道は一本じゃで、その池そば通りますのじゃ」
男 「う~ん、あんまり気色のえぇ池やないなぁ。そのそば通ったらじきかい?」
婆さん 「はい、その道どんどん行きますとな、首切地蔵さんがあるんじゃ。 西の村のお庄屋さんの一人娘が、祭りの晩に追いはぎかどわかされてな、一晩中えらい目に遭わされて帰って来て、それからというもの口も利けなくなってしもた。庄屋さんは村人を集めて山狩りをして浪人の侍を捕まえて、ちゃんと詮議もせずにそのお侍の首を、草刈鎌で切ってしもうた。さて明くる日、ホンマもんの追い剥ぎが見付かったんじゃがもう手遅れじゃ。それから村のあちこちでわけの分からん怪しげなことが起ってお庄屋さんもそれを苦にしてか、ひと月余りでコロッと逝てしまいなはった。地蔵さん建てて侍の供養しましたんじゃが、よほど恨みが強かったんじゃろ、日が暮れに地蔵さんのそばを通ると地蔵さんの首がポッと抜けて飛び回りましてな、その人の首へガボッ・・・」
男 「それ通り 過ぎたら、じき堀越村かい?」
婆さん 「しばらく行きますときつね川に父追橋ちゅう橋が架かっておりますじゃ。昔はもっと広い流れの激しい川で何べん橋架けても流れますのじゃ。巫女さん頼んで神さんに聞いてもらいまとな、”竜神さんが住んでいなさる、橋架けたいならば、人柱立てんならん”ちゅうことやった。 さて誰を人柱にてなことなったが、誰に決めたらええのか困っていると、下新田の茂助ちゅう男がノコノコ出て来て、”この村で一番役に立たずの奴、人柱にしたら、役立たずが片付くし人柱ができるし結構なこっちゃないかい”ちゅうたらみなが、”それがえぇわい。おい茂助、お前が一番役立たずじゃわい”、 言い出しべぇの茂助、びっくりして村から飛んで逃げよったんやが、”茂助が逃げよったからには茂助の家のもんがその責任とらにゃならんわい”、ちゅうて、茂助の嫁 さんと子どもちゅうことになったんじゃ。 逃げ回るのんみな寄ってたかって無理から沈めて人柱じゃ・・・。お陰で橋架かって、流れも緩やかな川になったんやが、その橋んとこ日が暮れに通りますとな、川ん中から”お父っつぁん、わしゃ何も悪いことしとりゃせんわい、堪忍して、堪忍してくれぇ・・・”、ちゅう声がするんや。どうしても川ん中覗きとなって覗くとその嫁さまがニッコリと笑ろて、”お前さ~ん”というよな顔するらしいなぁ・・・、それが父追橋じゃ」
男 「聞かなんだらよかったなぁ。ほんで何かい、それを行くともぉ堀越村かい?」
婆さん 「それからしばらく行きますと首くくりの松が・・・村の娘が悪い男に騙されて大阪へ売り飛ばされたんじゃ・・・、余りの辛さに耐えかねて村へ戻って来て、その松で首くくりましたんねん・・・ちょ~どそこ四つ辻になってますので、わたしどもはそこを幽霊(ゆう れん)の辻と呼んでますのじゃ。その辻のすぐ先が堀越村じゃ」
男 「まぁ、今さら行かなしゃ~ないんやけどな・・・、日が暮れまでに行けるやろか?」
婆さん 「お前さんのよな若い衆じゃ、間に合わんことあろまいと思うが、用心のためにこの提灯持て行きなはれ」、婆さんに礼を言って男は怖がりながら堀越村を目指して行く。
男 「何や? 急に日が暮れたやないか、 お婆んしょ~もないこと言いやがって。あぁ~、ここが水子池やなぁ・・・うぅ~・・・、なんやホギャホギャも何もあらへんやないかい。一つ助かった」
男 「まだあるで、あれが首切地蔵や。 あの首が飛んで来て首へガボッ! あぁ~怖わ~怖わ~、自分の声でビックリするやないか。・・・首やなんか飛ばへんやないかい、何言うとんねんあのお婆んわ。・・・川流れてるがな、父追橋や、かなわんなぁ・・・今さら、帰られへんしなぁ・・・うわぁ~、あ、あっ、あっ、あっ、何にもあらへんがな! 何やねん、怖いこわいと思うさかい怖いねん。怖ないと思たら・・・やっぱり怖いやないかい。・・・おぉ、灯りが見えてきた。堀越村や」、嬉しくて走り出して幽霊の辻までやって来ると松の木の陰から
若い女 「おっさん」 、「出たぁ~!」
若い女 「おっさん、何怖がってなはんねん?」
男 「何じゃい、 ただの娘やないかい! びっくりするやないか。水子池じゃ、首切地蔵じゃ、父追橋じゃいうて脅かしやがって、何にもあれへんねやないか。松の木の陰からヌッと出て来やがって、首くくりの松の幽霊やと思てびくりしたやないかい!」
若い女 「ほんだら、おっさん。わてを幽霊やないと思てなはんの?」、言うなり女の姿がふと消えた。
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