「棒鱈(ぼうだら)」


 
あらすじ 寅さん熊さんが料理屋の二階で酒を飲んでいるが、男二人だけでは面白くもない。隣の座敷では芸者が入って盛り上がっている。そこで女中を呼んで、
熊さん 「芸者を一匹生け捕って来てもれえてぇな。粋な年増がいいぞ、年増ったって七十七なんてのはダメだぞ、二七、八、三十デコボコってとこで、酒を飲みたがらねぇ、料理を食いたがらねぇ、祝儀を欲しがらなねぇ、帰(けえ)る時にゃこっちに祝儀をくれるってとこを頼みてぇな。」

女中「ほほほっ、・・・難しいご注文で。はい、かしこまりました」

熊さん「かしこまってばかりいねえで、とっとと立ってさっさと芸者呼んで来い!」

寅さん 「よせよ!姐(ねえ)さん、勘弁してくれ、こいつは酒癖が悪いもんだから。これ少ないけど、取っておいてくれ」

熊さん 「隣の座敷は、また芸者が入りやがったな」、一方隣の座敷では、

芸者 「旦那、ちっともお出でがないじゃありませんか。近頃ではもっぱら品川の方で御遊びだとか・・・」

侍「いやぁ、大井、大森、蒲田、川崎らと、品川へ逗留いたしておった。品川の倉相模と言う見世で、もぐらと言う女が出てびくっりしたぞ」

芸者 「いやですよご冗談ばかり。土蔵相模で小倉さんと言うお方でしょう。あらお料理はまだですか?なにか召し上がったらいかがです、旦那の好きなものは何でしたっけ?」

侍 「わしの好きなものは、えぼえぼ坊主のそ(酢)っぱ漬け、赤ベロベロの醤油漬けたい」

芸者 「何です、それは?」

侍 「マグロのサスムと、タコのサンビイス(三杯酢)だ」

熊さん「寅さん、今の聞いたか、隣のイモ侍の言いぐさ。赤ベロベロのしょう油漬、マグロのさすむだってやがら」

侍 「おい、今、隣の座敷でイモ侍と言ったぞ」

芸者 「そんなことより旦那、久しぶりに何か歌ってくださいよ」

侍 「おお、そうか、わしの歌が聞きたいか。では、もず(百舌鳥)のくつばす(口ばし)てのを歌おう。♪「もずのぉ~くつばすぅ~、三郎兵衛の薙刀、差せ~や唐傘ぁ~、ワツキり、チャッキリ、鍋の墨かきゃ、たぬきゃぁの腹鼓、ほらぁ、ポンポン」

熊さん 「何でぇ、ありゃ歌かぁ? たぬきゃ~の腹鼓ってやがら、あのイモ侍の野郎。都々逸でも歌いやがれてぇんだ。”四国西国島々までも都々逸は恋路の橋渡し”、”明けの鐘ゴンと鳴る頃三日月形の♪櫛が落ちてる~四畳半~”、こうこなくっちゃいけねえ。ここの四畳半に落ちてんのは、えぼえぼ坊主と赤ベロベロベロじゃあ、色気も素っ気もねえや」

芸者 「旦那、お隣では粋な唄歌ってますよ。三味線に合うような粋な唄、お願いしますよ」

侍 「よし、十二ヶ月と言うのを歌おう。♪いちがちぃ(一月)はぁ松飾り、にがちぃはテンテコテン、さんがちぃは雛まちゅり、しがちぃはお釈迦様~」

熊さん 「あれが歌かぁ、いちがちぃはテンテコテンだってやがら。にがちぃはお釈迦様、さんがちぃはテンテコテン、しがちぃはテンテコテン」

寅さん 「お前ぇのは、みんなテンテコテンじゃねぇか」

侍 「次は琉球を歌うぞ。♪琉球ぅ~おじゃるなぁら~、わらず(草鞋) 履いておじゃぁれ。琉球はぁいすわらぁ(愛し(いとし)やら?)こいすわらぁ(恋しやら?)。はあ、酒は飲め飲め、二六(にろく)まんず(饅頭)の、一つふけたら、食わんば、食わんば、ぱ~っぱ」

熊さん 「はっはっはっ、ぱ~っぱだってやがら。俺ちょっとイモ侍の顔見て来る」

寅さん 「よせ! こういう所は他の座敷なんか覗くもんじゃねえんだ。隣で何をしようと隣の勝手だ。無粋なことするんじゃねえや。いい加減酔っぱらっちまいやがって、・・・もう帰るぞ!」

熊さん 「すまん、俺ちょっと小便して来る」と、ふらふらしながら廊下へ出たが、どんな顔した野郎か見たくてしょうがなく、障子の隙間から覗いたが、酔っているから、障子ごと隣の部屋へドタンと転がり込んでしまった。

侍 「こらあ!何のために、わしが部屋へ乱入をいたしたか!」

熊さん 「何でえ~、お前か、今、たぬきゃ~、いちがちっ~、テンテコテン、テンテコテンって言ったのは手めえか。・・・マグロのさすむだ、これでも食うらえ!」と、刺身を投げつけた。これが侍の顔にベッタッくっついて、

侍 「これはけしからん、武士の顔面に赤ベロベロをかけおって!手討ちにしてくれるそこに直れ!」

熊さん 「斬れるものなら斬ってみやがれ!斬って赤い血が出なけりゃ、赤えのと取り替えてやらあ、銭は取らない西瓜(すいか)野郎だ。どうせおめえの刀は竹光でアカベロベロも斬れやしめぇ」

侍 「う~ん!何たる悪口雑言、もはや許すわけには参らんぞ!」と、刀を振り上げた。 

驚いた芸者 「二階のお客様同士が喧嘩ですよぉ!」、ちょうど調理場で鱈(たら)もどきを料理していた料理人が、あわてて両手に棒鱈胡椒を持って二階に駆け上がり、胡椒を振り回しながら仲裁に入った。

侍 「誰も止めるでないぞ、ふあぁ~くしょん、へ~っくしょん、」

芸者 「お止めてください、~くしょん、くしょん、はくしょん」

熊さん 「何だぁこりゃ?変なもん掛けやがって。へぇ~っくしょん、へっくしょん」

店の者➀ 「二階の喧嘩はどうなった?」

店の者➁ 「心配ない、胡椒(故障)が入った」


   
        





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