「引窓与兵衛」


 
あらすじ 上州大間々の早川村の豪農で名主、山崎与次兵衛。折々江戸へ出て遊んでいたが、柳橋の芸者のお早を身請けして郷里に連れて帰り、近村の家で囲っていた。ところが嫉妬深い女房にそれがバレ、村人にも知られて口汚く噂されるので、お早のところへは行けなくなってきた。

 お早を可哀そうに思った与次兵衛は世帯を持たせようと考える。ちょうど江戸から流れて来て与次兵衛の世話になっている与兵衛と一緒にさせた。この与兵衛はうわべは柔和で、如才がないが裏の顔は飲む、打つ、買うの極道もので相当な悪だ。

 しばらくすると地金を出してきて、酒、女、博打でお早の金を持ち出して何日も帰って来なくなるようになった。困り果てたお早は与次兵衛を家に招いて、「与兵衛と別れたいと」打ち明けた。

 お早から与兵衛の本当の顔と、不行跡を聞いた与次兵衛は、呆れかえって納得、二人で今後のことなどを話しているところに与兵衛が帰って来た。

 与次兵衛の説教を始めは黙って聞いていた与兵衛だが、そのうちに怒り出し、与次兵衛に向かって亭主の留守にこっそりとお早と酒なんか飲んでいる間男呼ばわりをし始めた。あまりの言いように聞きかねて、

お早 「さんざんお世話になった旦那さんに向かって不理屈を言うにもほどがある。恩を知らないのは人間じゃない畜生だ」と、言ったもんだから逆上した与兵衛はお早の髪をつかんで引きずり倒し、足で蹴ろうとした。

 その足が止めに入った与次兵衛の胸をドーンと突いてしまい、そのまま死んでしまった。うろたえるお早に、そこは悪才を働かせて、

与兵衛 「仕方がねえ。いくら気揉んだって死人は生き返らゃしねえ。まあ、どうかすらぁ」と、死骸を担いで出て行った。

 村はずれの博打場の清五郎の家まで来た与兵衛は、門口へ与次兵衛の死骸を寄りかけて立たせ、遠くから窓へ砂利を投げつけ、戸に近寄って、「博打やめろ、博打やめろ・・・」を繰り返す。

 清五郎は「うっちゃっておけ」と、動じないが、若い連中はあまりのしつこさに、「もう、勘弁なんねえ」と、薪を持って戸を開け、倒れ込んできた与次兵衛の死骸をボコボコに殴った。倒れている男の顔を見てびっくり、「た、大変だ、山崎の旦那さまだ」、みんな真っ青になってどうしていかも分からずに進退ここに極まれりだ。

 そこへ現れた与兵衛、座敷の真ん中の自分が殺した与次兵衛の死骸を見て、揺り動かしながら、
与兵衛 「旦那さま、こんなとこで酔っぱらって寝ていちゃお風邪でも引きますよ・・・」としらじらしい芝居だ。やっと与次兵衛が死んでいると気づいたふりで、

与兵衛 「親分、旦那を殺した野郎をここへ出してくだせえ。大恩人を殺したそいつの首を打ち落として敵討ちしなきゃおさまりがつきやせん」、清五郎はみんなをかばって、「おれの首を打ち落とせ」と申し出る。

 与兵衛は困ったような顔をして、「お前さん方がこの罪を背負(しょ)わないですむように工夫いたしやしょう。万一やりそこなったらこの罪はわっちがかぶりやしょう。その代わりみなで百両の金こしらえてもらいてえ。その金で江戸へ戻ろうと思いやす」

 清五郎はじめみんな、金でケリが着くのなら願ったり叶ったり。またもや与兵衛は死骸を担いで山崎家へやって来た。雨戸を叩いて与次兵衛の声色を使って、

与兵衛 「ここさ、開けてくんろ」

女房 「今頃帰ってきて開けてくんろもねえもんだ。お早んとこ泊まったらよかんべ」

与兵衛 「面目ねえからおっ死(ち)ぬぞ」

女房 「おっ死になっしゃい、おっ死になっしゃい」、この言葉を待ってましたとばかりに、与兵衛は井戸のそばに与次兵衛の下駄を並べて、井戸の中に死骸をドボーン。

 水音に驚いて家中の者が出て来て与次兵衛の死骸を引き上げて大騒ぎ。頃合いを見計らって与兵衛の登場だ。

 女房から、「おっ死になっしゃい、おっ死になっしゃい」と言ったというのを聞いて、

与兵衛 「他所の人にそんなこと言ったなんて絶対に言ってはだめですよ。あなたが死ねと言ったから旦那が井戸へ飛び込んで死んだことになれば、亭主殺しで、引き廻しの上、鈴ヶ森小塚っ原で磔(はりつけ)です。・・・」、なんて脅かして、自分が喋るかも知れないとちらつかせて五十両巻き上げてしまった。

 これから清五郎の家に行くと、
清五郎 「みなの頭数で百両、おれの餞別が二十両だ。これを持って江戸へ行ってくれ」、山崎家からの五十両と合わせて百七十両、お早を連れてその夜のうちに江戸に向かった与兵衛。

 すぐに早川で足手まといのお早を殺して江戸に入った。その後の与兵衛はどうなったのか。「悪い奴ほどよく眠る」、「憎まれっ子世に憚る」、「悪徳の栄え」かも。


    



落語『算段の平兵衛


        

649(2018・2)




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