「長持」
★あらすじ 八つぁんと熊さん、昨夜は湯屋でガキみたいにふざけていて隣町の連中と喧嘩になってしまった。袋叩きになりそうなところへ割って入って仲裁してくれた頭(かしら)に二人で礼に行く。お礼の品でも持って行くどころか、面倒見がよく人もいい頭のところへ行けば一杯飲めるという魂胆だ。
熊公 「頭、昨夜(ゆんべ)はえらい面倒かけちまって、すまんこって・・・」、いつもなら話もはずんで酒も出るはずなのだが、今夜はなんだか頭は落ち着かない様子で、
頭 「すまんが今夜は二人とも帰ってくれ」
八公 「あぁ、どなたかお見えになるので?」
頭 「まあ、そんなとこだ」
熊公 「頭もお安くねえですね。コレでしょ、どこの女です?」
頭 「馬鹿言うな、そんなんじゃねえや。おめえらも町内の近江屋と伊勢屋が仲が悪いのは知ってるだろう。それが近江屋の若旦那と伊勢屋の娘のお花とがいい仲になっちまってな。むろん親同士は犬猿の仲、仇同士みてえで許すわけがねえや。わしは二人の相談に乗ってやって時々この家を二人の逢瀬、語らいの場にしてあげてるんだ」、若旦那とお花はまるで、ロミオとジュリエット、清正公酒屋の清七とお仲のようだ。
八公 「ははぁ、なるほどねぇ、分かりやした。早え話が若旦那とお花のいちゃつくとこを貸してあげてるってことで」、スケベ根性を出して、
熊公 「二人のことは内緒にしときやすから、どっかで二人の様子を見させてくださいよ」
頭 「駄目だそんなこと、今夜は帰ってくれ」
熊公 「おい、八、帰(けえ)ろう、帰ろう、帰って近江屋と伊勢屋に行って二人の事喋ってこう」、脅迫まがいの言い草に困って、
頭 「仕方ねえ、そんならあの長持空にするから中に隠れてな。決して声出したりするなよ」、すぐに若旦那が、少し経ってあたりを気にしながらお花がやって来た。
熊公と八公は大きな長持の中に隠れ、頭は家を出て行った。若旦那とお花は今後のことなどをあれこれと話し始めて、なかなか熊公たちが期待している行動に移らない。
大きな長持でも大の男が二人じっとして入っているのは苦痛だ。熊公が少し動いたとたんに、すぅ~っとすかしっ屁を放ったからたまらない。中は毒ガスが充満してその臭いこと、中毒死しそうで八公はたまらずに蓋を持ち上げて立ち上がった。
びっくりしたお花は、「キャァ~」と目を回してしまった。熊公と八公は長持の回りをウロウロ、グルグル、ドタバタ回っている。隣家で時間を潰していた頭が騒ぎを聞きつけて駆けつける。
頭 「折角、二人の仲を取り持ってやったのに、てめえたちのせいで長持ちしねえぞ」
熊公 「なあに、長持があったからこの騒ぎで」
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