★あらすじ 棟梁の倅(せがれ)の源次郎はいつも継母にいじめられている。不憫に思った熊五郎の女房のお光は源次郎を本所達磨横町の長屋に連れて来る。源ちゃんは棟梁は今晩は帰らず、家に帰るとまたいじめられるから泊めてくれという。お光は「家(うち)の人も今夜は帰らないから、ゆっくり泊まっておいでよ」
そこへ帰らないはずの熊さん帰って来て、門口でお光の言葉を聞いてしまった。前後もわきまえず熊さんはてっきりお光が間男を引っ張り込んでいると勘違いして、入口の所の薪を一本取るや、家の中に飛び込み後ろから薪で思い切り源ちゃんの頭を殴った。お光にも殴りかかろうとしたが、お光によく見ろ、棟梁の所の源ちゃんだと言われやっと気づく。
二人で源ちゃんを介抱するが手遅れで死んでしまった。夫婦喧嘩で言い争っている場合ではない。うろたえる熊さんに、お光は死体を大川まで運んで投込んでしまおうと説得する。
源ちゃんの亡骸を大きな風呂敷に包んで、二人は九つ(12時)頃に長屋を出るが、すぐに弟弟子(おとうとでし)の吉五郎に見つかってしまう。お光は長屋へ入って来ては悪戯(わるさ)をする赤犬を棒で殴ったら死んじまったので大川に捨てに行くところだと言い訳する。
吉さんは風呂敷からはみ出している足は犬の足じゃねえ、人間の足だとすっぱ抜く。吉さんは二人を自分の家に入れ、美味い話なら自分も手伝うから割り前をくれと言い出す。お光が事の顛末を打ち明けると、大川なんかに死骸を捨てたらすぐに足がつく。俺の家の縁の下に埋めた方がいいと、熊さんを手伝わせて畳をはがして穴を掘り、源ちゃんの死体を埋めてしまった。
熊さんの弱いしっぽを握った吉さんは、「一文無しでどうにもならねえんだ。兄貴いくらか都合してくれ」と、強請る(ゆする)のも忘れない。翌日、熊さんがせい一杯都合した金包みを手に入れた吉さんは、もしもこの一件が露見するようなことがあっても、「万事、弟弟子の吉五郎が存じております」と突っ張り通せと言い渡す。
悪事は必ず露見するどころか、熊五郎夫婦には好都合の展開となる。源次郎は継母にいじめられて家出したと噂され、棟梁のおかみさん(継母)は、若い男をこしらえて家を出てしまった。がっかりした棟梁は風邪をこじらせて死んでしまった。弟子一同が集まって棟梁の跡目の相談となり、少し頼りないが熊五郎に引き受けてもらおういうと運びになる。
それからというもの熊さんにはどんどんと仕事も金も入り羽振りもよくなる。そうなると酒好きな熊さんは若い連中を引き連れ毎晩、忙しくなる。金っぷりのいい熊さん、若い女たちにちやほやされ浮気料簡が起こり、朝帰りが続く今日この頃となる。
「朝帰りだんだん家が近くなり」、家では女房のお光が角を立てて待ち構えている。「ああ言おう、こう胡麻化そう」と考えているうちに家に着いてしまう。嫉妬で逆上しているお光と言い争っているうちに、お光「・・・お前なんざ首がなくなって歩くのに見当がつかなくなるんだ。嫉妬(やきもち)を焼きゃあがって、源ちゃんをぶち殺し・・・・」、熊さんは必死に止めようとするが火に油で「源ちゃんを殺した・・・この人殺し・・・」と大音声で叫び始めた。
ちょうど長屋の前を手先を5.6人連れた八丁堀の同心が通り掛かってこれを聞き咎(とが)めた。ただ事ではないと熊さんの家に踏み込んで二人をお縄にして番屋へしょ引いて行った。取り調べると、お光は熊五郎が源次郎を殺して吉五郎の家の縁の下に埋めたに相違ないと言う。熊五郎は「万事、弟弟子の吉五郎が存じております」と言い張る。
早速、呼び出された吉五郎「・・・縁の下に犬の死骸を埋めたおぼえはあるが、人の死体などを埋めたことはございません。と申し開きをする。すぐに縁の下を掘り返してみると、出て来たのは犬の骨だけ。
お上から、「女房が嫉妬のあまりあらぬことを口走ったのであろう。夫婦喧嘩にお上の手をわずらわせるとは不届千万、犬の死骸といえども民家の縁の下に埋めるとは不埒至極」ときつく説教されたが、お咎めもなく一同放免となった。
吉五郎 「兄貴、いい塩梅(あんばい)でしたね」
熊五郎 「ありがと、お前のおかげで命拾いした。・・・しかし何故、あれ(死体)が犬の骨になっていたんだ」
吉五郎 「何かの時にゃ危ないと思って、掘り返して死骸は川へ流し、あとへ犬の骨を埋めておいたのよ」
熊五郎 「よく分かった。とにかく何処(どっか)で気分直しに一杯やろうじゃねえか」、話をしながら横丁を曲がる。すると大きな犬が足元から「ウゥ-、ワンワンワン」、「ぶち殺すぜ!」
犬 「へっ、人間にはされたくねぇ」
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