★あらすじ 大店の若旦那の徳さん。遊びが過ぎて勘当になる。「お天道さまと米の飯はいつでもついて回る」とか、吉原の女がいつでも引き受けて面倒を見てくれるなんて本気で思っている能天気なお調子もんだ。
吉原の女からは引き受けるどころか、愛想をつかされお払い箱、幇間(たいこ持ち)とか友達の所へやっかいになっていたが、どこからもすぐいやな顔をされもう行く所がない。
お天道さま裏切らずについて回って暑くてしょうがないが、米の飯はついて来ず、やけになって吾妻橋から身を投げようとする。
そこへ通り合わせたのが本所達磨横町に住む叔父さんだ。身投げを後ろからはがいじめにして止めたが、よく見るとこれが徳だ。
叔父さん 「なんだ徳か。お前なら止めるんじゃなかった、早く飛び込んじまい」、なんて冷たい。
今度は徳さんが助けてくださいなんて言い出した。
叔父さんは家まで徳さんを連れて帰り、飯を食わせその晩は早く寝かせた。早朝、徳さんを叩き起こし、用意した唐茄子を篭に入れ天びん棒でかつがせ商売に出させる。
唐茄子の重さと暑さでよろよろしながら歩いているうちに、小石につまづき転んでしまう。「人殺し!」なんて叫ぶもんだから、通りがかりの男がびっくりして徳さんを起こし、道に転がっている唐茄子を拾ってくれる。
事情を聞いた男は、通りかかった人たちに唐茄子を売りj始める。皆、気の毒がって一つ、二つと買ってくれる。唐茄子なんか食えるかなんて言う半公には、昔、半公が男の家の二階に居候していた時、唐茄子の安倍川を37切れも食べたことをすっぱ抜き唐茄子を買わせる。いざ買う段になると、半公は大きい唐茄子を選んでいる有様だ。
売れ残った唐茄子2つをかついで徳さんはまた歩きはじめる。気づくとここは、吉原田んぼだ。吉原遊郭の屋根が見え、派手に遊んでいた頃の花魁(おいらん)とのやりとりなどをなつかしく思い出しながら歩いて行く。黙って歩いていたことに気がついて、売り声の練習も始める。
町の中に戻り、誓願寺店(せいがんじだな)あたりに来たときに長屋の一軒の中から呼び止められる。着ているものは粗末だが、どこか品がある背中に赤ん坊を背負った若い女が、唐茄子を1つ売ってくれという。
売れ残った一つをおまけといってあげて、家の中で弁当を食べさせてもらうことにする。柱の後ろからこれを見ていた男の子が弁当を欲しがる。聞くと3日間もご飯を食べさせていないという。元は武士で今は小間物商いの夫の旅先からの仕送りが3か月も途絶えているという。
徳さんは同情し、唐茄子の売り溜めを全部そこへ置いて飛び出し、達磨横町の叔父さんの所へ戻る。唐茄子は全部売ってきたという徳さん。叔父さんは嬉しがり、飯の支度をさせ徳さんを団扇(うちわ)で扇いだりして大サービスだ。
売り溜めはと聞くと無いという。怒った叔父さんに今日の顛末を話す徳さん。その話が本当かどうか確かめに、今から誓願寺店の長屋に一緒に行くという。
長屋に着くと何か様子がおかしい。隣の海苔屋の婆さんに聞くと、唐茄子を買った若いおかみさんが首を吊ったという。幸い見つけるのが早く命は取り留めそうだという。
徳さんが売り溜めを置いて飛び出した後、おかみさんはこれは受け取れないと返しに後を追ったが追いつかず、ちょうど出くわした長屋の家主に金があるのを知られて、溜まっている店賃だといって全部取上げられ、やむなく首を吊ったのだという。
これを聞くや徳さん、飛び出し一目散に家主の所へ行って晩飯を食べていた家主のやかん頭をやかんでポカリと一発なぐる。これを見ていた長屋の連中は拍手喝采する。
すると長屋に住む竹さんが、家主の頭に何かを塗り始める。これを見た長屋の連中、怒って、「薬なんか塗るんじゃねや」
竹さん 「薬じゃねえ、傷口にとんがらしをすり込んでたんだ」、なんて大騒ぎ。
この事がお上に知れ、徳さんの勘当は解け、奇跡的に命を取り止めたおかみさんを達磨横町の叔父さんの家へ引取り面倒を見たという、
「情けは人のためならず」、唐茄子屋政談の一席でございました。
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