「言い訳座頭」


 
あらすじ 川柳に「大晦日首でも取って来る気なり」、「大晦日首でよければやる気なり」。大晦日は借金を取る方も、取られる方も必死だ。

 今年の大晦日も借金だらけの甚兵衛さんの家。『掛取り』や『睨み返し』のような手もう使うわけには行かない。そこで女房は、「長屋の富の市っあんは、口達者で知恵も回り、機転もきくから一円のお礼で借金取りの断りを頼もう」と提案。すぐに甚兵衛さんは座頭の富の市の家へ出向いた。

 富の市は金でも借りに来たのかと警戒したが、一円の礼つきで借金の断りと聞いて一安心、喜んで引き受けてくれた。甚兵衛さん「もう掛取りが来る時分ですから家へ一緒に来てください」に、富の市は、「商人(あきんど)は大晦日は大忙しなんだよ。無駄足をさしちゃいけないよ。向こうから来ないうちに、こっちから出掛けて行かなくちゃいけねえ」で、早速、米屋の尾張屋に先制攻撃開始だ。

 富の市「この甚兵衛さんの商売の大道商いがどうもうまくいかず、家財道具を売り食いしているような有様で・・・借金をとても今晩お返しすることはできない・・・」、米屋は「それは約束が違う。困る、困る・・・」を連発する。富の市は業を煮やした風に、「これだけの屋台骨しょっていて甚兵衛さんの借金なんてはした金じゃねえか。どうしても取ろうというのなら居催促だ。春まで待つと言わねえうちはここを動かねえ・・・」と居直った。店先で居座られて大声を出されては、商売の邪魔で入って来る客の手前もみっともない。しぶしぶ米屋は「・・・仕方ないから春まで待ちますよ」と陥落した。

 二人は次は名うての頑固者の炭屋へ乗り込む。富の市は以前買った炭にケチをつけ、甚兵衛さんの借金を切り出す。炭屋「炭に因縁つけるようなことしないで、何で最初(はな)から頭を下げて借金を待ってくださいと言わないんだ。・・・きっちりと今晩、払ってもらいますよ」と手ごわい。富の市「それじゃあ、甚兵衛さんに頼まれたあたしの顔は丸つぶれだ。申し分けが立たないから死んでお詫びをする。目が見えないので一人じゃ死ねないから殺してくれ、さあ殺せ!、殺せー!」と大音声を張り上げた。店の前には何事かと人が群がり店の中を覗き始めた。これにはさすがの炭屋も参って、「・・・いいよ、いいよ待つよ、春まで待つよ」であえなく陥落、二件落着。

 お次は町内一の喧嘩好きの魚屋の金さんの所だ。富の市は喧嘩腰で入って行くと思いきや、「・・・甚兵衛さんのおかみさんが流産で寝ているところへ、甚兵衛さんも患ってしまって食う物も食う銭もなくすっかり弱ってしまった。・・・気がかりなのは魚金さんへの借金のことという甚兵衛さんが可哀そうで春まで待ってくださいと親方の所へお願いに参りました。・・・・」なんて下手に丁重に出て頭を下げた。出鼻をくじかれたような形の魚金は、「まあ、待つのは仕方ねえが、昨日、床屋で甚兵衛さんを見かけたが・・・」、

富の市 「へい、その髭面では一緒に魚金さんの所へ行くのは失礼だし、万一病が治らず冥土からお迎えが来たとしても閻魔さまの印象も悪かろうと、あたしが無理を言って床屋へ行かせました・・・」と、よどみがない。

魚金 「うー、患っているにしちゃあ顔色もいいじゃねえか・・・」と、まだ半信半疑だがここも借金を春まで待ってくれた。魚金の店を出た二人、

富の市 「どうだい、うめえもんだろう。・・・おやおや百八つの鐘を突き始めたぜ・・・おらあ急いで帰ろう」

甚兵衛 「まだ三軒ばかりありますんで・・・」

富の市 「そうしちゃいられねえんだよ。これから家(うち)へ帰って、自分の言い訳をしなくちゃならねえ」



  





時の鐘(浅草寺) 
「花の雲 鐘は上野か 浅草か」(芭蕉)





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