★あらすじ 与太郎さんが風邪で腰が痛いと言う親父の代わりに、汁粉の荷をかついで夜の商売に出る。教わった売り声を出そうとするが、明るいところではうまく声が出て来ない。番町の暗いところまで行って、「お、お汁粉~、お汁粉~」となんとか様になって来た。
すると長い塀の高い窓から声が掛かる。「おい、汁粉屋、今ここから紐で鍋を下げるから汁粉を入れろ」
与太郎 「へい、かいこまりやした」と、大鍋に汁粉全部を入れると、上から鍋を引き上げて窓は閉められてしまった。
代金を受け取っていないことに気づいた与太郎さん、大声で「まだ、お足をもらっちゃいませんが」と怒鳴ると、窓が開いて「ここから塀沿いに十間ほど行くと門があって門番がいるからそこでもらへ」
与太郎さんすぐに門まで行って「お汁粉のお足を・・・」
門番 「貴様、何を言っとるか。当家で汁粉など買ってはおらんぞ」
与太郎 「今、あそこの塀の上の窓からお鍋が下りて来てお汁粉を全部・・・」
門番 「ははあ、悪い狸に化かされおったな。夜分にこのあたりを通る夜商人を狙って狸めが悪さをしおるんだ。狸に取られた汁粉の代金など当家で払えるか。さっさと帰れ」
与太郎 「あんな大きな鍋が狸・・・」
門番 「あれは狸のキンだ。狸のキンタマ八畳敷きと言うだろ」
与太郎 「そんなこと言ったってまだお足が・・・」
門番 「ははあ、貴様、総領の甚六だな」、「オラ、与太郎だ」
門番 「”総領は尺八を吹く面に出来”という、世の中をプゥォ~と生きておるからそういう目にあうんだ。・・・まごまごしているとこの六尺棒で向こう脛かっぱらうぞ!」、与太郎さん仕方なく空荷をかついで家に戻ると、
親父 「ああ、寒い中ご苦労だったな。・・・汁粉全部空になったじゃねえか。全部売れたのか?」
与太郎さん泣き声になって、「売れたんじゃねえや。全部取られたんだ」、
顛末を聞いた親父、「そうか言って置くのを忘れちまった。あそこは番町鍋屋敷と言って、ゴロツキのような侍たちが夜商人(よあきんど)をからかって、いじめているんだ。よし、オレについて来い」
行燈(あんどん)に”なべ焼きうどん”の紙を貼り、汁粉の代わりにに石を持って番町鍋屋敷の下までやって来て、
親父 「鍋や~きうど~ん、鍋や~きうど~ん・・・」
侍 「おい、ご同輩今日は獲物が多く通る晩だ。汁粉のあとのうどんの味も格別・・・おーいうどん屋、今ここから鍋を下ろすから・・・・」
親父 「へーい、かしこまりやした」、下りて来た鍋に石を入れて、「どうぞ、引き上げてくだせえ」、
侍 「うむ?これは重いうどんじゃな」と、引き上げて鍋の中を見ると石、
侍 「これこれ!うどん屋、これは何だ」
親父 「へえ、さっきの石返し(意趣返し)で」
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