「上方見物」

 
あらすじ 田舎から京都、大阪見物に出て来た二人連れ。賑やかな日本橋(にっぽんばし)あたりでウロウロ、東も西も分からなくなり、「ちょっくらものを尋ねますがのう。どっちがムナミでどっちがフガシかの」
通行人 「そらこっちが南でこっちが東、この川が有名な道頓堀じゃ」

旅人 「竹田の芝居ちゅうのはどこにあるな」

通行人 「この道頓堀に五座が並んでいる。こっちの端が竹田の芝居、今は弁天座で、その向こうが朝日座、角座、中座、浪花座ですわい」

旅人 「やくしやはいますか」

通行人 「薬種屋なら道修町の方へ行ったら・・・お前さんの言うてるのは役者やろ。芝居小屋に仰山居てますわ」

通行人 「天王寺さんはどう行たら」

旅人 「天王寺詣りなら、これを真っすぐ南に行って、ちょいと東へ・・・」、天満の天神さんは、城の馬場は、阿弥陀池は、天保山の港は、奈良は、伏見は、と知っているところを並べて聞いているようだ。

 腹の減ってきた二人はいい匂いのする乾物屋に入る。ニシンやチリメンジャコを見て、「美味いかの」、乾物屋「大阪は食い倒れという。まずけりゃ売れへん。美味いかまずいか、まず風味して見なはれ」、早速、チリメンジャコをバラバラ振りかけ、「・・・風味はただか。・・・これで弁当つかおう・・・うん、うまい」と、弁当を食べ始めた。「ちょっとつまんで味を見るのが風味や。飯の上に振りかけられたらどもならん」と、乾物屋もお手上げだ。

 今度はあんころ餅屋に入って、ちゃんと一銭払い並んでいる真ん中の餅を、両隣の餅のアンコをそぎ取って食べて、「こりゃあ、美味いわい」と満足、お前もと勧められた相棒も、同じようにアンコをごっそりそぎ取って、「美味い、美味い。でもこれは弁当のおかずにはならんで」なんて勝手なことを言っている。

 好奇心満々の二人、路地を入って行くと、炭屋が丸めた炭団を並べて干している。「大阪ちゅう所は油断も隙もならんとこじゃのう。こんな大きいあんころが一銭やがな」、こんな安いもん食べなきゃ損と、二銭払って二人でぱくついた。「・・・甘いことありゃせんがな。安いわけじゃな、これは」なんて呑気なことを言っている。

 まさか炭団にかじりつくとは思ってもみなかった炭屋「・・・あんたら何してんねん。こんなもん食うたらあかんで。これは火鉢に入れとくと真っ赤になる火の玉や」、火の玉を食って口から顔から真っ黒な二人に、「この辻入ったとこに牡丹湯があるさかい、そこへ行ってきれいにして来なはれ」、「そうか、早う牡丹様へ行ってきれいにしてもらおう」

 銭湯、風呂屋を知らない二人、丁寧に戸を開け、お辞儀をして牡丹湯に入って行く。番台へ二銭払って着物も脱がずに入ろうとする。「・・・こらちょっと。着物を脱いでもらわないかんで・・・」
旅人 「へえ、裸になるのかえ・・・ごめんなんし、ごめんなんし、うわぁ、仰山入ってる・・・あんた方、みんなタドン食うたんか?」

風呂の客 「・・・何でんねん?真っ黒な顔して」

旅人 「牡丹様はどこかいな。この湯の中におるかいな」、牡丹様を探してザブザブザブ大声でやっているので、風呂屋の若はん(三助さん)、なんでこんなやかましいのかと思って、奥の戸を開けて顔を出した。

旅人 「わあ、お前が牡丹様か」

若はん 「いや、わしゃたく役(芍薬)じゃ」



 サゲは、「牡丹に芍薬、竹に虎・・・」で有名な尻とり唄のもじりだそうだ。今は「立てば芍薬座れば牡丹・・・」か。たく役は風呂を焚く役、三助さんのこと。


 
  
  



「浪花百景」道頓堀角芝居 歌川国員画

道頓堀芝居側(摂津名所図会)
「中座前」(大正8年頃)の写真
(『大阪市立図書館デジタルアーカイブ』)



道頓堀(日本橋)から





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