「紙入れ」

 
★あらすじ小間物屋で働く新吉、得意先の商家のご新造さんから今夜は旦那が帰らないから遊びに来てくれと手紙をもらう。ひいきにしてくれ、世話になっている旦那には悪い気もしたが、迷った末に出かけて行く。

新造は酒を勧め、今日は泊ってくれという。新吉は断るが、新造はどうしても帰るというなら、留守の間に新吉が言い寄ってきたと旦那に言うとおどす。困ってがぶ飲みして悪酔した新吉は隣の間に敷いてある布団に入る。すぐ後から長襦袢(じゅばん)姿になった新造さんもふとんへ入って来た。さあ、これからという時、表の戸を叩く音、帰らぬはずの旦那が帰って来たのだ。パニックに陥った新吉を尻目に、新造さんは落ち着いて新吉を裏口から逃がす。

家に駆け戻った新吉、悪いことはできないものだ、旦那に気づかれはしなかったかと反省と心配しているうちに、紙入れを忘れたことに気づく。旦那にも見せたことがある紙入れで、中には新造からもらった手紙が入っているのだ。夜逃げでもしようかなんて思ったりして、まんじりともせず夜を明かす。

翌朝、居ても立ってもいられず、恐る恐ると旦那の家に行く。長火鉢の前で煙草をふかしていた旦那、新吉が浮かぬ顔をしているのであれこれと聞く。女のことだと分かり、若いやつは羨ましいなんて言ってたが、これが「主ある花」、人の持ち物と聞き、「人の女房と枯れ木の枝は登りつめたが命がけ」と説教を始める。新吉も顛末を喋り出し、手紙のはさんである紙入れを忘れた、そこの旦那に見つかっただろうかと心配そうに言う。そこへ現れた当のご新造さん。

新造 「おはよう新さん、気が小さいのねえ。それは大丈夫と思うわ。だって旦那の留守に若い人を引っ張り込んで楽しもうとするくらいだから、そういう所に抜かりないと思いますよ。新さんを逃がした後に回りを見て、紙入れがあればきっと旦那に分からないようにしまってありますよ。ねえあなた」

旦那 「そうりゃあそうだ。よしんば見つかったところで、自分の女房を取られるような野郎だよ。まさかそこまでは気がつかねえだろう」



    


 
「知らぬは亭主ばかりなり」、不倫・間男噺の傑作です。新吉と亭主を手玉に取るご新造さんのしたたかさは小気味よいくらいです。姦通・姦婦・妖婦・毒婦といった暗いイメージでないのは落語ならではでしょう。むろん戦時中は禁演落語53噺の一つでしたが。(落語『駒長』に記載)

上方落語では続きがあり、新造が「その間抜けな旦那の顔を見たいものですね」、すると旦那が顔を突き出して「おおかた、こんな顔だろう」と落とします。なんとも凄いですね、愉快ですね。怖いですね。


古今亭志ん朝の『紙入れ【YouTube】





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