「駒長」  古今亭志ん生


 
★あらすじ★ ほうぼうに借金だらけの長兵衛とお駒の世帯。もうにっちもさっちもいかない。
長兵衛が一計があるという。深川に住んでいる上方者の損料屋丈八をおどして金を巻き上げ逃げ出してしまおうという。計略とは、丈八がお駒に惚れているので、お駒に丈八への手紙を書かせる。丈八と前から内緒で会っていることにし、また会いたいという内容だ。その手紙をお駒が落としたところを長兵衛が拾い、丈八が損料を取り立てに来るのを見計らって夫婦喧嘩を始める。丈八が来たら、間男の証拠の手紙を見せ脅して金品を巻き上げて遠くへとんづらをきめこむという寸法だ。

いやがるお駒を相手に稽古を始める。「この女(あま)、太え女だ。男の面に泥を塗りやがって・・・」「お前さん、ごめんなさい」こんな調子だ。
そろそろ表に丈八が来たような足音で、本番の夫婦喧嘩を始める。すると、「お稲荷さんのお札はいかがでございましょうか」と拍子抜け。
また誰か来た。今度は丈八のようだとまた喧嘩を始めたらこれが海苔屋の婆さん。お駒は2度も殴られ損だ。
三度目の正直でやっと丈八がやって来た。長兵衛がお駒を殴っているのを見て止めに入るが、自分も長兵衛から殴られる。「この間男野郎、この始末をどうつけてくれるんだ」と長兵衛は脅しにかかる。
びっくりしている丈八に証拠の手紙を見せ、お駒との仲を取り持ってくれた親分の所へ行って、事の顛末を話してからてめえたち二人を重ねて四つ切りにしてくれるなんて息巻いて家を飛び出して行った。

後に残った二人、丈八はみすぼらしい着物を着、殴られてみじめなお駒に声をかけ、日頃からのあまりの長兵衛のやり方に見かねているという。お駒も本当はあんな人とは別れたいのだが、長兵衛がいやがって離れない、丈八さんみたいな親切な人と夫婦になりたいと打ち明ける。
これを聞いた丈八も前からお駒のことを憎からず思っていたので、一緒に上方に逃げようということになる。丈八はお駒に損物の着物、帯、羽織を着させる。
お駒は長兵衛に火鉢の上に置手紙をして、二人で手に手を取って「はいさよなら」

一方の長兵衛は、親分のところではなく、友達の家で一杯やって時間をつないで頃合を見計らって家に戻るつもりが、飲み過ぎてそこで寝込んでしまい夜が明けてしまった。
あわてて家へ飛んで帰るともぬけの殻だ。火鉢の上に置手紙。お駒が丈八をどこかに連れて行ったのでその連絡の手紙だなんてまだ呑気だ。
「嘘から出たまこと。丈八様をお慕い申しそうろう。それに引き換えお前の悪性。つくづくいやになりました。ああいやな長兵衛づら、ちいちいぱあぱあ数の子野郎。丈八さんと手に手を取り長の道中変わらぬ夫婦とあいなりそうろう・・・・・・書き残したき事数々あれど先を急ぐ旅ならば。あらあらめでたきかしこ」
手紙を読んだ長兵衛は出刃包丁を持って「こん畜生」と表へ飛び出す。
すると、向うの屋根のカラスが長兵衛の顔を見て「あほう、あほう」



 
★見聞録★
 夫婦馴れ合いで間男をして、姦夫を脅して金品を巻き上げるという、いわゆる「美人局(つつもたせ)」、相対間男の噺です。
戦時中は不道徳の内容だとして、廓話、妾や間男の話が「禁演落語」53種として自粛され、浅草本法寺の「はなし塚」に葬られ、「駒長」もその一つ。

志ん生のお駒さんでも丈八が惚れそうな色っぽい感じがしますが、上方から来た丈八は今ひとつで、お駒さんに惚れられるような男の感じはしません。それは志ん生が関西弁をうまくあやつれなかったことにあるようです。
丈八が何か柔な年寄りの男のような語り口です。桂枝雀が「鷺とり」で江戸弁をしどろもどろで喋べっていたのと同じでしょう。
志ん生は二人を長兵衛が追っても追いつかないように、長兵衛を酔わせて友達の家で夜明けまで寝かせてしまったのでしょう。
可哀想なのは長兵衛さん、「身から出た錆」「嘘から出た真」とはいえ、計略はうまくいかず、かえって惚れた女房に逃げられる羽目に会い、カラスの声までが「あほう、あほう」と聞こえてくるようではこの後、お先真っ暗。やけを起こさなければよいのですが。

丈八の商売の損料屋とは、料金を取って衣服、夜具、器具などを貸す商売。またはその商売人。(三省堂大辞林)


古今亭志ん朝の『駒長【YouTube】

   「はなし塚」(浅草の本法寺境内・台東区寿2-9)

自粛して禁演にした落語は53。この中には「子別れ」もある。「子別れ上」の「強飯の女郎買い」のところがいけないのだろう。夫婦別れをする話がいけないのではあるまい。「不動坊」も入っているがどこが不道徳なのか? それにしても、当時の落語家達の時局への迎合ぶりが分かる。
戦後の昭和21年9月、塚の前で禁演落語復活祭が行われ、それまで納められていた台本に替えて戦時中の台本などが納められた。




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