★あらすじ 上総屋の一人息子は三十近くになっても紙芝居が大好き、チンドン屋の後を追い回している。外から帰って来た息子は、親父に近所の芝居小屋が明日から始まるとご注進だ。
芝居好きの親父は息子もたまには親思いなことをすると喜ぶが、よく聞いてみると、「近日開演」と貼り紙がしてあったという。近日は近い内で明日とは限らないと説明しても、息子は一番近い日は明日だなんて譲らない。
親父は息子に、いい大人のくせして少しはを気を利かせなければダメだと説教するが、馬耳東風、暖簾に腕押しで通じない。親父は、「お前と話していると身体が悪くなってしまう」と愚痴をこぼす。
これを聞いた息子は店を飛び出して医者を呼びに行った。気を利かせたつもりなのだ。医者は店先で煙草をふかして、ぴんぴんしている親父を見て「元気で何より」と世辞を言い、呼びに来たのがあの息子なら致し方あるまいと浮かぬ顔をして帰って行った。
しばらくすると今度は表が騒々しくなり、葬儀屋が棺桶を運び込み、花輪を立て始めた。帰って来た息子に問いただすと、渋い顔をして帰って行く医者とすれ違ったから、もう手遅れだろうと思って気を利かして葬儀屋を呼んで、坊主の手配も滞(とどこお)りなく、万事準備万端と得意げだ。親父はあきれて声も出ず、煙草をふかしているよりない。
町内の連中も上総屋から医者が帰り、葬儀屋が来たので旦那が死んだと思い、くやみ上手なヨッちゃんを先頭に、上総屋へぞろぞろ。ヨッちゃんが自慢のくやみを、「承りますればこの度ご当家では・・・・」と、述べながらひょいと顔を上げると煙草をくわえて、苦虫を噛み殺したような顔の上総屋が正面で睨んでいる。あわてて飛び出したヨッちゃんに町内の連中はきっと旦那の兄弟だろうと言ってまたくやみを言いに店に入った。
ついに堪忍袋の緒が切れた旦那、「いい加減にしろ。おまえさん方まで、ウチの馬鹿野郎といっしょになって、あたしのくやみに来るとは、どういう料簡だっ!」
町内の衆 「それでも、店の前を葬儀屋がウロウロして、表に白黒の花輪、忌中札まで出てるんですよ。町内でくやみに来んの当たり前でしょ」
旦那 「え、そこまで手を回しやがって、この鹿野郎、表に忌中札まで出しゃがって」
息子 「近所の奴らもあんまし利口じゃねぇや。よ〜く見ろぃ、忌中のそばに近日と書いてあらぁ」
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