「小烏丸」


 
あらすじ 日本橋石町の質屋の伊勢屋幸右衛門、人呼んで仏の幸右衛門。女房に先立たれ、後添えももらわずに家族は娘のおてるだけ。

 そこに目をつけたのが女中のお梶。何やかやと幸右衛門の世話を焼き、後妻に納まってしまった。そうなると今までとは打って変わって、家事も幸右衛門の世話もせず、昼間から二階で鍼医定安と酒を飲んでいる有様だ。

 回りの者はお梶と定安の仲を知っているが、幸右衛門に告げる者もなく、幸右衛門も知ってか知らずか二人は好き勝手に振舞っている。

 見兼ねた鳶の頭(かしら)の勝五郎が幸右衛門のところに探りを入れに来る。川柳の本で、「町内で知らぬは亭主ばかりなり」、「居候亭主の留守にし候」などを読ませて気づかせようとするが、暖簾に腕押しなのか、馬耳東風のように幸右衛門は何の反応も示さない。

 勝五郎はお茶を勧められたが飲む気もせず、台所でぶつぶつ言いながら水を飲んでいると、隣の小部屋からおてるが呼ぶ。おてるは離れの座敷をお梶に明け渡してここに移って、幸右衛門の着物の繕いなどをしているのだ。

 おてるは勝五郎に、「このままではこの家はお梶と定安に乗っ取られてしまうでしょう。そうなれば私はともかく人のいい父が可哀想で・・・まずは定安だけでもこの家から追い払いたいと思うのですが・・・」と打ち明ける。むろん勝五郎も全く同感で、二人は定安を追い出す算段を相談する。

 勝五郎が帰った後に、酒に酔った定安が水を飲みに下りて来た。おてるは色仕掛けで定安に迫る。
おてる 「もうこんな家にはいたくはありません。どうか私を連れて逃げてください」、色ボケ欲ボケのお梶にすっかり飽きていて、前からおてるに下心がある定安には願ったり叶ったり、棚から牡丹餅だ。

定安 「お嬢さんと一緒ならどこまでも・・・」ともう鼻の下を伸ばしている。

おてる 「それじゃ今夜の八つの鐘を合図に私を迎えに来ておくれ」

定安 「どこに逃げるにしても金が要ります。店の金百両と、蔵にある名刀の小烏丸を持って来ておくんなさい」ということで話は決まった。

 さてその晩、手筈通りに八つ刻に定安が来て、おてるを駕籠に乗せ、王子の定安の知り合いの家に向かった。飛鳥山近くまで来ると駕籠屋がぐずぐずと酒手をせびり出した。旗本の三男と触れ込みの定安は短刀で駕籠屋を追っ払った。

 すると駕籠から出て来たおてるが懐から百両の包と小烏丸を出して、
おてる 「さあ、これをあげるからどこへでも行っておしまい」

定安 「何を今さら、さんざとなぶった後に、女郎にでも売り飛ばしてやるから覚悟しろ」と、おてるを引っ張って行こうとする。そこに飛び入ったのが勝五郎。

定安 「邪魔するねえ!」と、腰に差した名刀、その昔、戸隠の山中で平維茂が鬼を斬ったという小烏丸に手をかけた。抜けば刀の回りをカラスが群がって来るという。定安がサァーッと抜き放つと、何と群がって来たのは、チュンチュンチュンチュン、大勢の雀。

定安 「な、な、何と雀が群がるとは・・・」、月光にかざして見ればそれもそのはず竹光だった。


 
    

 下げは『矢橋船』と同じ  

 

小烏丸で鬼を退治する平維茂






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