★あらすじ 七度狐に化かされたりしながらも、清八、喜六の二人連れは墨坂峠を越えて、榛原宿へと入った。
旅籠油屋の前の札の辻で山越えの本街道と分かれ、初瀬街道を進む。山部赤人の墓がある山辺三を過ぎ、琴弾峠を越え、藤堂藩本陣がある三本松から青葉の滝の先で、伊賀国名張に入ろうとすると安宅ならぬ鹿高(かだか)の関という新しい関所がある。
領主の鯉津家に「栄之助」という嫡男が誕生し、その名前に通じる「こいつぁええ」という言葉を使わぬよう、忠告するための関というまるで落語に登場するような関所だ。
役人は通行手形を見せろと言うがそんな用意はない。すると役人は目出度い折であるから、何か芸事をやれば通してやるという。
清八・喜六は粋で、色っぽい、洒落て、下らない都々逸で難なく突破。他の旅人も、手妻使い、俄(仁輪加)師などの芸達者で、田舎の役人は面白がって全員、無事パスで名張宿へ進む。
思わぬ所で手間取って宿までは腹が持たない二人、「名物ドゼウ汁」の店に入る。この店はこれから「ドジョウをすくいに行く」なんて言わない。喜六はドジョウを待つ間に店の小倅と将棋を始めるが、弱すぎて(むろん喜六)相手にならない。
出てきたドジョウと酒でくつろいでいると、裏手から三味線の音が聞こえてきた。見ると綺麗な三人の娘が三味線を弾いている。
思わず喜六 「一杯飲んでいる所へ、あんなおつな音色がこんな田舎で、こいつぁええ!」と叫ぶと、役人達が入って来て喜六を取り押さえた。
びっくりして声も出ない喜六に代わって清八が役人をあしらう。
清八 「三味線を弾いていた娘さんの中で濃い茶の着物の人が一番巧そうなので濃茶がええなぁ、 濃茶がええなぁ、濃茶ぁえぇと、申したんで」
役人 「うまい言い訳をする奴じゃ、濃い茶がええ、濃い茶ぁええ、・・・ついには膝を叩いて、こいつぁええ!」で御用となった。
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