「汲みたて」  三遊亭円生(六代目

 
★あらすじ 町内の美人の小唄の師匠を張り合っている長屋の連中。芸の上達は二の次で、皆あわよくば師匠をなんとかしようという下心を持った狼連だ。

 今日も集まって稽古の様子や師匠のうわさをしていると、鉄ちゃんが入ってくる。いい男が出来たからもう師匠のことはあきらめろという。鉄ちゃんが稽古屋を覗いてみると、建具屋の半公と師匠が火鉢をはさんでよろしくやっていたという。

 連中は半信半疑で、師匠の家に手伝いに行っている与太郎に問いただすと、二人は鉄ちゃんの言うとおりの仲らしい。与太郎は師匠が長屋の連中のことを有象無象なんて馬鹿にしていることまで暴露する。

 今日、師匠、半公、与太郎の三人で柳橋から舟を出し大川(隅田川)に涼みに行くという。おさまらない連中は自分たちも舟を仕立て、師匠たちの舟に近づき笛、太鼓の馬鹿囃子で驚かして邪魔をしてやろうと大川へ繰り出す。

 師匠の三味線で半公が唄いだそうとする所へ舟を近づけ、ドンドン、ピイヒャラ、テケテケ、チキチッチと大きな音で囃し立てる。怒った半公が屋根舟から顔を出し連中と言い合いになる。

半公 「なにをべらぼうめ、師匠を煮て食おうと焼いて食おうとこっちの勝手だ、何言ってやんででもくらえ」

長屋の連中 「なに、糞でもくらえ」

半公 「糞でもくらえ」

長屋の連中 「糞をくらうから持って来い」

そこへ肥舟が一艘、すう−と入ってきて、 「汲みたていっぺい(一杯)あがるけえ」


    
落語には稽古屋のお師匠さんがよく登場します。年増の色っぽい女性が相場のようです。弟子になるのは大抵、長屋の自惚れ屋のおっちょこちょい連中です。「蚊弟子」なんてのもいたようで、夏の暑い盛りの夜に涼みがてら稽古屋に来る連中のことで、涼しくなると自然にいなくなってしまう弟子のことです。
 師匠とうまくやっている建具屋の半公(本名は半次)は、「蛙茶番」ではもてない荒くれ男としておなじみです。そこでは惚れた娘に町内芝居の舞台番の役でもいい所を見せようと張り切りすぎて大失敗する間抜な男ですが、この噺の半公はもてもてのいい役です。

昔は東京の町中の家から肥を汲み取って、代わりに野菜などを置いて行く肥船が隅田川を行き来していたそうで、舟遊びも風流なことばかりではなかったのでは。『肥船の写真


   神田川(柳橋の先で隅田川と合流する) 《地図

ここから師匠と半公、与太郎の三人は屋根舟で大川(隅田川)へ涼みに行った。
   大川(隅田川)

言問橋からの桜並木


 「隅田川


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