★あらすじ 裏長屋に母親と職人の兄の八五郎と暮らすお鶴は今年18、親孝行で兄思い、器量良しで気立てのいいの評判娘だ。ある日、横町を駕籠で通りかかったの赤井御門守の目に留まる。早速、家老の田中三太夫が大家の所へ行き、お鶴と家族の仔細を尋ね交渉、大家の仲介で支度金五百両でお鶴は御屋敷奉公することになった。
まもなく、お鶴は懐妊、男の子を出産、まだ世継ぎのなかった赤井御門守は大喜びで、「お鶴の方」と呼ばれる大出世となる。
一方の兄、八五郎は相変わらず、酒、博打と遊び放題の日々を送っている。そこへお鶴の方が会いたがっているので、屋敷に参れとの知らせ。堅苦しい所は苦手な八五郎だが、大家は御屋敷に行けば酒・肴の御膳に、帰りがけに五十両ほどくれるだろうという。早速、大家から羽織袴を借り、殿様の前では言葉使いに気をつけ、初めに「お」をつけ、最後に「奉る」をつけて喋るようにと教えられて御屋敷へ出かける。
八五郎は田中三太夫に付き添われ、家来や女中が居並ぶ大広間へ入る。そこへ殿さまがお鶴を伴って現れ、「鶴の兄、八五郎とはその方か」と声を掛けてもあがって声が出ない。殿さまの、「これ、即答をぶて」に、「側頭をぶて」と聞き違え、いきなり三太夫の頭(おつむ)をポカリとやった。やたら「お」と「奉る」だらけの言葉を喋り出したので殿さまは何を言っているのかさっぱり分からず、「今日は無礼講であるから、朋友に申すごとく遠慮のう申せ」とのありがたい仰せだ。
こうなればしめたもの、あぐらをかいた八五郎、調子に乗ってべらべらと喋りだし、そのうちに酒・肴の豪華な御膳が出る。殿さまのそばで赤ん坊を抱き、にこにこ笑って兄を見ているお鶴に気づいた八五郎は急にしんみりとなり、「おめえがこんなに立派になったって聞けば、婆さん、喜んで泣きゃあがるだろう。初孫の赤ん坊も抱きたいだろうが、それはなるめぇ。こんなご馳走を一度でも食わせてぇものだ。おい、お鶴、殿さましくじんなよ。子供が出来たからと自惚れてはいけねぇ・・・・・・殿さま、こいつは気立てがやさしいいい女です。末永くかわいがってやっておくんなせぇ」。
しーんとなった座を盛り上げようと思ったか八五郎、都々逸を歌い出した。「四国西国島々までも、都々逸恋路の橋渡し」、「雨戸たたいてもし酒屋さん、無理言わぬ酒頂戴な」、「止めちゃいやだよ酔わしておくれ、まさか素面じゃ言いにくい」、すっかり酔って調子に乗った八五郎、「なんてなぁどうでぇ殿公」とまさに無礼三昧だ。
あわてた三太夫、「これっ、ひかえろ」
殿さま 「いや、面白いやつ。士分に取り立てて、召し抱えてつかわせ」、というわけでツルの一声、八五郎が侍に出世するという、おめでたい一席。
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