★あらすじ 大店の小僧の定吉が葭町の桂庵の千束屋(ちづかや)から、美人の女中さんを店に連れてきた。店の奥さんは番頭を筆頭に男どもがよからぬことを仕掛けるので、なるべく不器量な女を連れて来るように言っておいたのだが、定吉は小遣いをやるからいい女を連れ来いという番頭の誘いに乗ったのだ。女中を見ようと店の男連中はざわざわと落ち着かず、仕事もそっちのけだ。
女中が奥へ通る前に番頭は自分の前へ座らせ、自分の言う通りにすれば、帳面は筆の先でドガチャガさせて得なことばかりだからとごちゃごちゃと喋り始める。そして夜中には寝ぼけて人の部屋に入り込む癖があるが、声を出さないでくれと夜這いを納得させようと一生懸命だ。定吉の声で前を見るともう女中は居ず、小僧の彦どんが風呂敷を被って一部始終を聞いてしまって笑っている。
奥さんは女中が器量良しなので危ぶんで、奥の用事をするようにさせ、台所の中二階の部屋で寝るように言いつける。これを聞いていた定吉はまた小遣いをせしめようと番頭に御注進だ。このマル秘情報に喜んだ番頭は早速、店を早仕舞いにして、店の者にすぐに寝るように言いつける。
まだ明るい内から無理やり寝かされた店の男どもだが、美人の女中が中二階の部屋で寝ることはもうちゃんとご存じだ。狸寝入りの作りいびきであたりを偵察して、忍び込むチャンスを窺(うかが)うが、そのうちに夜になって疲れて本当に寝入ってしまう。
寝相の悪い小僧から蹴られて目を醒ましたのが二番番頭の久七だ。中途半端な時間に起こされてしまってぼやいていたが、念願の計画達成のチャンスが到来したと気づき、そろりそろりと台所へ。まっ暗の中を中二階への梯子を手探りするがない。奥さんが女中の身を案じてはずしてしまったのだ。
幸いに天井から吊戸棚が吊ってある。久七はここにぶら下がって中二階によじ上ろうとするが、途端に吊ってある縄がぷつんと切れて戸棚を担ぐ羽目となった。中の醤油の瓶から流れ出した醤油が首筋から背中へ伝わって、できものに滲みてヒリヒリと痛いが手を離すことが出来ない状態に陥った。
そこへ二番目に起きた番頭がやって来て考えることは同じ、反対側から吊戸棚にぶら下がり縄が切れてアウト。二人で暗闇の中を仲良く戸棚を担ぐ有様だ。そこへ台所の物音を聞きつけた奥さんがやって来た。灯りで照らされた二人はグゥグゥといびきをかき始めた。
奥さん 「何をしてんだよ、二人で吊戸棚なんか担いでいびきなんぞかいたりして」
番頭 「今、夢を見ておりました」
奥さん 「何の夢を見ていたんだい」
番頭 「引越しの夢を見ておりました」
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