「辻八卦」

 
あらすじ 大道易者が偉そうにそっくり返って、「・・・今日は師匠の十三回忌じゃによって、見料は半額・・・」
通行人甲 「この人、下手でっせ。去年も天王寺さんで師匠の十三回忌て言うとりましたがな。そんな易者に上手いのおらんで」

易者 「それはわしではない。別の易者や」

通行人甲 「隠したかてあかんわ。鼻の頭ににホクロがあるがな」

易者 「そっちから人相みるな。信用せんのなら、当てものと言うやつで驚かしてやろう。そこの男、お前は泉州堺の人間で、包丁屋の職人と見たがどうじゃ」

通行人乙 「当たったがな。何で分かったんや」

易者 「泉州堺は昔から軒の深いところじゃ。お前がデボチンだから分かる。そして歯の上が出歯で下が臼歯で包丁屋の職人というこっちゃ」

易者 「ああ、そっちの笠を被っている男、お前は大今里村久太郎の倅も久助だろう」

久助 「何でそんなきっちり分かるねん」

易者 「笠に書いてある」、これじゃ易からはほど遠い。

通行人丙 「ちょっと先生、見てもらいたい」

易者 「ああ、黙って立てばピタリと当てる。何を見て欲しいのじゃ」

通行人丙 「今日、道頓堀の「角の芝居」忠臣蔵の通しを五段目から立ち見して・・・」

易者 「一体、何を見てくれと言うのじゃ」

通行人丙 「山崎街道の場で”またも降り来る雨のあし、人の足音とぼとぼと・・・花道から与市兵衛が出てくるなあ。・・・懐から縞の財布を取り出して・・・後ろから与市兵衛を刺し殺して財布くわえて顔を出すのが定九郎や」

易者 「一体お前は何を見て欲しいんじゃ」

通行人丙 「・・・が飛んできて・・・鉄砲に当たって定九郎はひっくり帰ってしまうがな」

易者 「いい加減にせい。何が見て欲しいのじゃ」

通行人丙 「花道の揚幕から舞台へパーッと勘平が出てくる」

易者 「お前さんの用事は何だんねん」

通行人丙 「・・・‥猪やあらへんで人間やがな・・・五十両の財布を懐にねじこむと花道へ・・・」と、五段目を語ってしまった。

易者 「おい、何を見てくれちゅうねん」

通行人丙 「あの定九郎ちゅう奴、何に生まれ代わってまっしゃろなあ」

易者 「・・・それがお前の見てもらいことか。・・・まあ、定九郎は牛、それも大津の車牛に生まれ代わっておる。重たい車をシイシイ(猪猪)と追われて引かされとるんや」

通行人丙 「ほな、勘平は」

易者 「風呂屋の釜焚きじゃ。いまだ鉄砲とは縁が切れん」

通行人丙 「五段目には出てへんけど、力弥は何に生まれ代わってますやろ」

易者 「相撲取りじゃ。今だ前髪の縁を離れん」、

 後ろで聞いていた立派なが前へ出て来て、「最前より承っておりましたが、いちいち的確なるご判断、感服つかまつりました。手前は中国筋のさる藩に禄を食(は)む者でござる。かねがね忠臣蔵の大星由良助殿に心服いたしております。もし、大星殿がこの世に生まれ代わっておられるならば、対面してご教示をあずかりたいと思っていたところでござる。いかがでござるな」

易者 「いや、そ、その儀は・・・」

侍 「・・・由良助殿は何に生まれ代わっておるな。・・・これ、易者いかがいたした」

易者 「はっ!」

侍 「こりゃ、易者、易者、由良助は・・・」

易者 「今だ誕生(参上)仕りませぬ


 
   
』より

  

柏刃物店(堺市)



「浪花百景」道頓堀角芝居 歌川国員画
道頓堀は芝居小屋が密集する浪花随一の繁華街だった。
道頓堀の南にあった角芝居が描かれている。

道頓堀芝居側(摂津名所図会)(『大阪市立図書館デジタルアーカイブ』)
「中座前」(大正8年頃)の写真(『大阪市立図書館デジタルアーカイブ』)




与市兵衛の墓 「説明板」  《地図
このあたりは「横山峠」と呼ばれていたそうだ。
それほどの高さもなく、今は明るい猪や賊など出そうもない住宅街だが。
西国街道@



車牛・走井餅茶店(広重画)
定九郎が生まれ変わった牛はどれか?


車石 「説明板」 『東海道(大津宿→三条大橋)』
石の溝の所を車牛の車輪が通った。



四段目の判官切腹の場面(歌川国直画)
座敷中央奥に判官、その右傍らには上使の石堂と薬師寺が並ぶ。
力弥は画面左側、腹切り刀を三方に載せて捧げ持ち、判官のいる奥へと進む。
「力弥、力弥、由良助は」「いまだ参上仕りませぬ」





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