★あらすじ 息子の俊造に刺身包丁をあつらえるよう頼んだが、出来てきたのは菜っ切り包丁。
親父 「おまえは包丁一つの注文もよう出来んのか」、そばから母親が包丁屋が間違ったなどといろいろと息子をかばって取りなすが、親父の怒りは収まらない。そばで俊造は黙って頭を垂れているだけ。
親父 「なにも今日だけのことで、わしは怒っているのやない。これだけ言われたら、一言ぐらい言い返したらどないや。何を言われても黙ってて。気があかんちゅうのは、ただのアホちゅうことや」、言われっ放しの俊造はその後、姿を消してしまった。
あちこち捜し回ったが見つからない。家出したものとあきらめ、少しは外で苦労するのも本人のためと強がりを言っていたが、早や一年が過ぎてしまった。
お彼岸に老夫婦は天王寺さんへお参りに行く。参道は大勢の参拝人、いろんな出店で大賑わいだ。引導鐘をついて帰ろうとすると大勢の乞食が、「長々患いまして難渋しております」、「乳飲み子を抱えて難渋しております」などと、節をつけながら大きな声で施しを受けている。
ところが、一人だけ後ろの方に隠れるように座って、黙ってただ与えられる物だけを受けている乞食がいる。さすがは母親、それが我が子の俊造と気づき、父親につれて帰ろうと言う。
親父 「乞食であろうが、あの甲斐性なしが、今まで生きて来たというのが不思議や。けど、よう見てみい、乞食になっても、あいつは物も言えんと後ろに引っ込んで座ったきりや。乞食ちゅうのは、人から施しを受けようと、哀れっぽいこと言って、節つけて声だして一生懸命に物乞いしてるんや。それも境内の大道芸と同じ、一つの芸や」
親父は帰ろうとするが母親は折角ここで会えたのにと承知しない。親父はみたらし団子を買ってきて、
「これをあいつにやって来い。ただし、ただやるんじゃない。あいつに何か芸をやらせてから渡すんだ」、母親は団子を俊造の前に持って行って、
母親 「この団子はあそこにいる旦那さんがくれはったものや。しかしただでくれたんやない。乞食なら物をもらうと時に言うことがあろう。旦那さんにも聞こえる大きい声で言ってみなさい」
乞食(俊造) 「ながたん(菜刀・長々)あつらえまして(患いまして)難渋しております」
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