「お文さん」

 
あらすじ 船場の酒屋の万両の前で丁稚の定吉が掃除をしていると、赤子を抱いた男が来て定吉に赤子を預けて立ち去ってしまった。

 赤子の着物の中には万両の主人宛ての手紙が入っていて、わけあって子を捨てなければならず、育ててもらいたいと言う文面だ。ちょうど息子の作次郎お花の夫婦には子がなく、大旦那は天からの授かり物、いずれは店の跡取りにと赤子を育てようと考える。すぐに定吉を手伝い(てったい)の又兵衛のところへ使いにやり、今日中にお乳母(んば)さんを探して連れて来るように頼む。

 定吉は今日中に乳母なんて無理な話と思いながらも又兵衛の所へ行くと、又兵衛は待っていたかようにお乳母を連れて来る。これは定吉も知っているもとは新地芸者で、今は作次郎が鰻谷仲之町に囲っているお妾(てかけ)さんのお文さん。さっきの赤子は二人の間の子どもで、どうしても三人一緒の家で暮らしたいというので、又兵衛が捨て子のようにして打った芝居だったのだ。

 又兵衛は定吉に口止めし、お文さんを乳母として万両へ連れて行く。若くて別嬪過ぎる乳母を見て大旦那はびっくりしたが、赤子を乳母に抱かせ赤子がお乳を飲む様子を見てひと安心で大満足。

 一方の作次郎は二人の仲を知っている定吉を呼び、「これからはどこまでも乳母さんのつもりで、けっしてお文にさんをつけて呼んではならん。そんなことをすれば暇を出すぞ」と言い含める。

 お文さんは乳母はもちろん、店先に出て客に愛想よく応対するのでこれが大評判で店はますます繁盛する。

 万事順調だが女中のお松、ぺらぺらとよく喋るので”雀のお松”が、乳母のお文さんと作次郎の間が怪しいと嗅ぎつける。早速、お松はお花さんにご注進だ。

お松 「あの乳母のお文は、御寮さんより数段いい着物を着て・・・若旦那と怪しい・・・」と告げる。お花さんは真相を探ろうと定吉を呼ぶ。餌に出された饅頭を美味そうに頬張っている定吉に、

お花 「・・・嘘をつけばその饅頭に入っている毒でお前は死んでしまう・・・」と脅すと定吉はぺらぺらと白状、お文さんと作次郎と子どものことを喋ってしまう。

お花 「今、若旦那はどうしています?」

定吉 「奥の間でお文を読んでいらっしゃいます」

お花 「なんと、同じ家に居ながら文をやり取りするとは、そりゃあんまり・・・」と、奥の間へ行って襖を開けかかると、中から若旦那の御文章を読む声が、「・・・されば、朝には紅顔ありて夕には白骨となれる身なり。すでに無常の風きたりぬれば・・・」

 部屋へ戻って定吉を呼んだお花、「あれは御文章お文さんというもの。お文さんならなぜさんをつけないのですか」

定吉 「お文にさんをつけたらあたしが暇を出されます」



  








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