「近江八景」


 
あらすじ 松島紅梅に入れ揚げているが、友達の所へ八卦を見てもらうので付き合ってくれとやって来た。来年の三月に年季(ねん)が明けたら所帯を持つ約束をしているが、それが本気かどうか占ってもらうと言う。友達は騙(だま)すのが商売の女に本気なんかあるはずもないとクールだが、逆上せている男は紅梅だけは違うとしぶとい。友達は紅梅にはホンマの間夫がいて、これが役者顔負けの色男で、とても勝負にはならないからあきらめろと言うが男は信じない。そんなこと喋りながら易者の所へやって来た。

 易者の占いには、「易のには”沢火革”(たっかかく)、タクは沢(さわ)、カは火(ひ)、カクは革(あらたまる)。沢辺に燃ゆる火が、新たに燃ゆる物を得て勢い盛んに立ち昇るという、これは良い卦じゃ。女は間違いなしにお前の所へ来ると出た」で、男は大喜びだ。しかし易者は「ちょっと待て、易は変卦(裏)というものを見なければいかん。 四爻(しこう)を変爻をすると”水火既済”(すいかきせい)と出たなぁ、これも良い卦なんじゃが、この場合はあまり面白うないな。察するところ、女に間夫があって、その元へ行きたいのじゃが、今は事情があってそこへは行けんので、一時の足だまりとしてお前の所を選んだに違いない。隙を見てその間夫の所へ走ろうというのに違いない。なるほど騙され面しとる」と非情な宣告だ。

 往生際の悪い男は易者に紅梅からもらったを差し出し、読んでくれと粘る。
「恋しき君の面影を、しばしがほどは見い(三井)もせで、文の矢ばせ(矢橋)の通い路や。心かただ(堅田)の雁ならで、我れからさき(唐崎)に夜の雨、濡れて乾かぬ比良の雪瀬田の夕べと打ちとけて、堅き心は石山の、月も隠るる恋の闇、会わず(粟津)に暮らす我が思い、不憫と察しあるならば、また来る春に近江路や、八つの景色に戯れて、書き送り参らせそろ、かしく」。

 近江八景を詠み込んだ、なかなかの名文と易者は感心するが、「待てまて、この文の表において判断をすればじゃ・・・・・ 最初、さきの女が比良の暮雪ほど白粉(おしろい)を塗り立てたのを、お前が一目見い(三井)寺より、我が持ち物にせんものと、心矢ばせ(橋)に早って唐崎の夜の雨と濡れかかっても、さきの女は石山のあき(秋)の月じゃゆえ、文の便りも片便り(堅田より)。 それにお前の気がそわそわと浮御堂。その女も根が道楽(落)雁の強い女じゃゆえ、とても世帯(瀬田い)は持ちかねる。こりゃいっそ会わず(粟津)の晴嵐としなさい。
 「あ、さよか。おおきありがと。さいなら」

易者 「こりゃ、見料を置いて行かんか」

「アホらしい。近江八景に膳所(ぜぜ・銭)はいりまへんのじゃ」


     

』より


  

 「沢火革」の四爻(下から4番目)が
変爻をすると「水火既済」となる。


 掛取り』の言い訳にも、近江八景が使われている。



桂米朝の『近江八景【YouTube】




膳所神社表門(膳所城の大手門を移築)






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