「猿後家」  

 
★あらすじ 顔が猿にそっくりで猿後家とあだ名されている、川上屋という大店の後家さん。当人はひどく気にしていて、店では「サル」とつく言葉は禁句になっている。

 この店に出入りしている太兵衛という男、後家さんに取り入り、べんちゃらを並べて機嫌を取るのが上手いので気に入られている。今日も後家さんの部屋で、大津絵の藤娘そっくりだなんて言って後家さんを喜ばせて、酒、肴のご馳走を振舞われている。太兵衛がしばらく町内の若旦那連中と伊勢参りに行ってくると言うと、後家さんはさびしがり、早く帰るようにと餞別を与え、店の者からも無理やり餞別を出させる。

 伊勢参りから帰った太兵衛が店に来る。みやげ話をしている時、奈良の町の様子を話しているうちにうっかり「沢の池」と口をすべらせた。これを聞いた後家さん、かんかんに怒り、太兵衛に煮え湯を浴びせて、店からつまみ出せという騒ぎだ。

 番頭から今日のところは家に帰れと言われた太兵衛だが店の出入りを差し止めになると、後家さんをほめて収入を得ている生活の算段がつかなくなるので、なんとか取りなしてもらおうと番頭に願い出る。

 番頭は太兵衛の前に後家さんに取り入っていた又兵衛という男の話をする。
又兵衛は、うっかり「さるお家に・・・」と言ってしくじったが、数ヶ月たって美人の錦絵を持ってきて、あなたによく似たこの錦絵を家の壁に張り、毎日お詫びを申していますというと、後家さんはたちまち機嫌が直った。ただ、この後、「ご当家をしくじったら木から落ちたも同じでございます」と言ってまたしくじってしまったのだが。

 これを聞いた太兵衛は、番頭から古今東西の美女の名前を教わり、さっそく後家さんのところへ行く。怒っている後家さんに、さっきは「さむそうの池」といったのだとごまかすと、

後家さん 「そうかい、わたしの聞きようが悪かったんや。堪忍してや」

太兵衛 「いいえ、どういたしまして。ところでお家はんを昔の美女にたとますと、わが朝の日本では小野小町照手姫衣通姫、唐土(もろこし)では、玄宗皇帝の想い者で・・」

後家さん 「玄宗皇帝の想い者で、一体、誰に似ているというのや」

太兵衛 「ようひひ(楊貴妃)に似てござります」

  
                         大津絵の藤娘     


猿沢池から興福寺五重塔


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