「心眼」 三遊亭円楽


 
★あらすじ★ あんまの梅喜(ばいき)が横浜から馬道の家まで帰ってくる。
顔色が悪いので女房のお竹が聞くと実の弟の金公から「このどめくらめ、この脳なし野郎と」罵られたという。幼いころめんどうを見た実の弟の仕打ちがくやしくて仕方ないから明日から三、七、二十一日の間、茅場町の薬師様へ目が開くように願を掛けに行くといい寝込んでしまう。

がらり夜が明け梅喜は薬師様へ願掛けのお参りに出かける。
そして今日は満願の日、どうか薬師さまご利益で目を開けてくださいと祈るが一向に開かない。頭にきた梅喜は二十一日もかかさずお参りに来ているのに目を開けてくれないのは、「賽銭泥棒、やらずぶったくり」だなんて毒づき始める。
ちょうどそこへお参りに来た馬道の上総屋の旦那から「馬鹿野郎、なんてことを言うのだ」と叱られ、目が開いていることを教えてもらう。

喜んで上総屋と一緒に馬道まで帰る途中で人力車に乗った芸者連を見た梅喜が上総屋にお竹と今の芸者とどっちがきれいかと聞く。
上総屋は呆れて、人三化七とはよく言うが、お竹さんは人なし化十だが、心の美しさは日本一だ、それにひきかえ梅喜は役者も顔負けの男前だ、芸者の小春などはお前にぞっこんだなどと吹き込む。
仲見世から浅草観音堂へ出ると小春に出会う、小春は目の開いたお祝いをするから付き合ってくれと富士横町の富士下にある待合のつり堀へ梅喜を誘う。

一方、上総屋から梅喜の目が開いたことを聞いたお竹は浅草観音へやって来る。梅喜が小春と連れ添って行くのを見つけて後をつける。
待合の中では梅喜があんな化け物のような女房とは別れて小春と一緒になると言っている。
これを聞いたお竹が飛び込んで、梅喜の胸ぐら、首にしがみつく。
梅喜 「苦しい、苦しい」

お竹 「どうしたの、お前さん」と梅喜を揺り起こす。

お竹 「悪い夢でも見てたんじゃないの、今日が願掛けの初日だよ」

梅喜 「お竹、おれは信心はやめた。めくらてえのは妙なもんだ。寝ているうちだけよーく見える」



          


 
★見聞録★ 目が開くように願掛けをするのは落語「是清」と同じ。夢のところは落語「芝浜」と同じです。
願を掛けるのは、「是清」では赤坂の円通寺と上野の清水寺です。満願の日に目が開かないので、観音さま、薬師さまに毒づくところものはどちらの噺も同じですが、「是清」は結局目が開き、「心眼」では夢のことですから開きません。
ご利益があるのか、ないのかは梅喜は願掛けに行かなかった(まだ行っていない。これからも行かないようです)のですから分かりませんが。
梅喜は本当に役者顔負けの男前だったのか、お竹は化け物級の醜女だったのでしょうか。実際は反対だったのかも。
梅喜は気を取り直して茅場町の薬師さまに行ったかも。

*茅場町のお薬師様は、中央区日本橋茅場町1丁目の鎧島山智泉院の本尊薬師如来像。江戸時代は山王権現の本地仏として向い側の山王御旅所(現、日枝神社)内にあった。眼病に霊験あらたかで、文銭を「め」の字形に並べた額や、「め」と書いた絵馬が奉納された。廃仏毀釈などの影響で現在は川崎市の等覚院に安置されている。
薬師如来は、病気を治し安楽を得させる仏。

*富士横町は”お富士山”と呼ばれる浅間(せんげん)神社(浅草5-3)のあるところ。富士小学校、富士幼稚園、富士公園などや浅草署もあり待合などがあるような雰囲気は全くない。
*馬道は浅草寺の東側で「馬道通」に名が残る。
*待合は、「待合茶屋」で、待ち合わせや男女の密会、芸伎と客の遊興のために席を貸し、酒食を供するところで、円楽は「連れ込み」と説明しています。


桂文楽(8代目)の『心眼【YouTube】
   茅場町薬師(智泉院) 中央区日本橋茅場町1-5

智泉院は日枝神社境内にあった薬師堂の別当名。
本尊の薬師如来像は川崎市の等覚院に安置されている。
右下の天水鉢は天保12年(1841)に本尊が開帳されたのを記念して奉納されたもの。縁日には植木市も開かれ、庶民の厚い信仰を集めていたという。
   日枝神社(智泉院の前)

永田町の日枝神社の祭礼に渡御する神輿を安置する、御旅所。
江戸時代にはここに薬師堂があった。
   浅間神社(浅草5-3)
富士山信仰が盛んだった江戸時代に富士山遥拝所として創建され、”浅草のお富士さん”と呼ばれ親しまれている。
5,6月の最終土曜日・日曜日の植木市で賑あう。
例祭日は富士山山開きの7月1日。

江戸時代の地図』(断腸亭料理日記より)(富士神社)
   浅間神社から富士小学校(左)・富士公園(右の浅草警察署のビルの後ろ側)
   馬道通りから浅草寺ニ天門(正面) 《地図
   橋本薬師堂(浅草観音堂の西側)

当初は観音堂の北側にあって「北薬師」と呼ばれた。
梅喜は馬道からわざわざ茅場町の薬師まで行かなくてもすぐそばに薬師堂があるのに。それだけ茅場町の薬師は霊験あらたかだったのだろう。




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