★あらすじ 剣術に凝った半さん、道場の先生に武者修業の旅に出たいと申し出る。
先生 「剣術の修業の熱心なのは感服するが、昔から生兵法は怪我の元ともいう。修業の旅というものは生易しいものではないぞ。拙者の武者修行時代の苦労話をお聞かせしよう」
半さん 「へぇ、お願えします」
先生 「上州の館林に参った時のことじゃ。分福茶釜で有名な茂林寺のあるところじゃ。城下へ入ると、杉酒屋の前で大勢の人だかりがしている。抜き身の刀を振り回した賊が押し入ったというのだ。賊が土蔵に入ったところを店の者が外から鍵をかけて閉じ込めたはいいが、中では賊が刀を振りかざして危なくて、中へ入って賊を召し捕ろうとする奴などはおらん」
半さん 「そりゃあ、中に入りゃ首を斬られるんだから」
先生 「そこで、拙者が賊を召し捕ってやろうと進み出た。腹が減っては戦にならぬので、飯を五杯と味噌汁を三杯飲みながら計略を考えた。賊を一刀両断に斬り捨てるのは容易いが、生け捕りにしようと酒屋から空き俵を二つもらって、一つをえィっと土蔵の中に投げ込んだ。賊は血迷っておるから空き俵を人と思って斬りつけてきた。賊に隙ができたところへ拙者が飛び込んで、見事に取り押さえたという次第じゃ」
半さん 「なぁんだ、わけねえや」
先生 「いや、あれで賊の腕がもっと立っていたらどうなっていたかは分らぬ。今のお前の腕前では武者修行に出るのは危ない。もっと腕を磨いてからもう一度考えることだ」と、諭され半さんはもっと腕を上げてからにしようと今回の武者修行を諦めた。
長屋へ帰る途中で町内の酒屋の前まで来ると黒山の人だかりだ。酔った浪人が金も払わずに暴れるので何とか土蔵に追い込んだが、刀を振り回しているのでどうしょうもできないという。
半さん 「よし、拙者がその侍を生け捕りにしてくれる。腹が減っては戦はできぬ。これ主人、飯と味噌汁の用意をいたせ。それと空き俵を二つ持って参れ」、飯食って味噌汁飲んで、酒樽の縄をたすきにとって十字に綾なし、手ぬぐいで鉢巻をして身支度完了。
半さん 「いいか見ていろよ。この俵を一つ中に放り込めば、賊がそれを人と思って斬ってくるだろう。そこへ飛び込んで取り押さえてしまうということよ」と、大声でネタをバラしてしまった。すかさず俵を放り込むが浪人は斬ってこない。
半さん 「・・・おやおや、斬り下ろさないね・・・いってえ、中で何してんだろ」と、首をニュ~ッと土蔵の中に入れたとたんに、浪人がエイッと斬り下ろした。半さんの首はゴロゴロッと地面を転がって、
「先生、嘘ばっかり」
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