「手切れ小僧」


 
あらすじ 日本橋本町の呉服問屋の旦那根岸の妾宅に囲っているお梅のよからぬ噂を耳にする。小僧の定吉を呼んで、

旦那 「根岸に小遣い渡しに行ってついでにお梅の様子を見て来ておくれ」

定吉 「へへへぇ、隠密の偵察ですか。歳は取っても悋気は止まぬ 止まぬはずだよ先がない」、よくこんなこまっしゃくれた小僧を飼っている。早速、根岸に行って、

定吉 「旦那さんからこれを預かって来ました」

お梅 「まぁ、いつもご苦労さん。さあ、こっちへお上がりなさいな」、座敷へ上がった定吉は欠伸をしたり目をこすったりして隠密の仕事の取り掛かる。

お梅 「あれ、どうしたんだい。そんなに眠そうな顔をして」

定吉 「お店は夜は遅くて、朝が早いので今頃になると眠くてしょうがないんです」

お梅 「そうか可哀想に。隣の部屋で少し昼寝して行きなさいな」で作戦準備完了。隣の部屋でグウグウと狸寝入りで様子を伺っている。そこへ表の戸が開いて誰かが入って来た。旦那の言ったとおりだと緊張して耳を澄ませる定吉。すると、

お梅 「遅かったじゃないの。お花ちゃん」、二人は座敷でぺらぺらとお喋りを始めた。女じゃしょうがないと、当てがはずれて安心したのか、がっかりしたのか、定吉は本当に寝てしまった。

お花 「あら、隣の部屋に誰かいるの?いびきが聞こえるけど」

お梅 「旦那が小僧の定吉を使いと言って探りによこしたのよ。でもやっぱり子どもよ、ほんとに寝てしまったみたいね。いい年してやきもちやいて、もうあんな年寄りは何かにつけてうるさいから、今のうちに百円もふんだくってすっぱりと手を切ってしまおうと思っているのよ・・・」と、本音を言い出した。

 すっかり偵察の任務を忘れていい気持ちで寝てしまって、
定吉 「ああ、だいぶ寝てしまいました。もう店に帰らないと叱られてしまいます」と、帰ろうとすると、

お梅 「これ、ちょっと待ちなさい。あんた旦那から頼まれてここへ隠密の探りに来たんでしょ」

定吉 「隠密ってなんです?」

お梅 「しらばっくれたって駄目よ。寝たふりしてあたしのこと疑って調べようと来たんでしょ。・・・あんたもこんな役目背負わされて可哀想だから、これ少しだけど持ってお行き」

定吉 「えっ、これ一円もらえますの」

お梅 「どうせ何も聞いてないと思うけどな、帰ったら、あたしは旦那さんにえらい惚れ方してると言ってちょうだい。分かったら早くお帰り」

定吉 「へい、わたいも男や。一度頼まれりゃ否とは言わない。一円の手前もあるけど・・・」、どこまでも現金な小僧だ。店に戻ると、

旦那 「おぉ、ご苦労さんじゃった。どうだ根岸の様子は?」

定吉 「へい、この定吉、任務を完全に果たして参りました。お梅さんの隣の部屋で寝たふりをして様子を伺っていると、旦那の思っているとおり誰か訪ねて来ました」

旦那 「やっぱりそうか。で、どんなやつだった?」

定吉 「襖の隙間からのぞくと、若くて綺麗で派手な模様の浴衣を着て、馴れ馴れしい物言いで・・・」

旦那 「そうか、芸人か役者かなんかだな。それでお梅は相手のことを何て呼んでいた」

定吉 「お花ちゃんて呼んでました」

旦那 「馬鹿ぁ!それは向こう隣の娘さんだ。・・・それでお梅はあたしのことも話していたか?」

定吉 「お梅さんはあたしは旦那にこんなに惚れていても、こんな不細工な顔でいつ他所に女ができて捨てられやしないかと心配で夜も寝られない。旦那さんの言うことなら何でも聞きますと言ってました」

旦那 「そうか、わしの言うことなら何でも聞くと、・・・えらい!心中でも指でも切るということだな」

定吉 「指なんかじゃすみません。百円もふんだくってすっぱりと手を切ってしまおうと言ってます」






駿河町三井呉服店
駿河町は日本橋本町の南側、本町は江戸時代は西から東に1~4丁目(江戸切絵図
北に十軒店町がある。『人形買い


        

693(2018・3)




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