「牛の嫁入り」


 
あらすじ 亀戸の質屋、伊勢屋の主人の善兵衛は、神仏を深く信じているというか盲信している。一人娘のお花によい婿を授けてくださるようにと、毎夜、亀戸の天神さんへ日参している。

 これに目をつけたのが本所緑町に住む屑屋与太郎だ。この与太郎はそんじょそこらの与太郎さんと違って悪知恵も働かそうという格上の兄貴分だ。

 与太郎は亀戸小町とも呼ばれているお花さんをなんとか物にしようと悪算段をする。屑の中から黒い布を引っ張り出して被り、頭にお椀を乗せ、(しゃく)の代わりにしゃもじを持って天神様になりすまし、お参りに来た善兵衛の前に現れて、「本所緑町の屑屋の与太郎を婿にせよ。さすれば店は繁盛、一家安泰、子孫繁栄は間違いなし。夢々疑うことなかれ」と、宣(のたも)うた。すっかり信心のお蔭と真に受けた善兵衛さん、「あ~りがぁたや、あ~りがぁたや~」と踊りながら店に帰った。

 早速、番頭を与太郎のところへ使いにやる。番頭はどこの馬の骨かも分からず、お花さんの気持ちも確かめないで事を進めるのは気が進まなかったが、そこは忠実一路の奉公人だ。まずは与太郎がどんな男か確かめようと、緑町に行って与太郎の長屋を探しながら近所の評判を聞くとこれがひどい。ぐずで、だらしなく、アホ面で、喧嘩っ早く、貧乏、ケチ、助兵衛、意地汚く、とにかくどうしょうもない男、・・・と果てがない。いざ、与太郎の家に行くとこれがまた悪評以上の男だ。

 番頭が婿入りの話を切り出すと、
与太郎 「急にそんな大店の養子になるのは御免こうむるってもんだ。どうしてもと言うんならお花さんをここへ嫁入りさせてくださいよ。汚ねえ長屋の路地なんぞ通って来たらお花さんびっくりしちまうといけねえから、長持に入れて運んで来てくださいな。当座の暮らしの金の五十両も一緒によろしく願いたいね」と、どこまでも図々しい。

 番頭は帰って善兵衛に報告する。
番頭 「とてもお嬢様の婿になどになる相手ではありません。神様だって間違えることや、旦那さんの聞き違いということも・・・」

善兵衛 「馬鹿を言うものじゃない。天神様に間違えなどあるはずがない。わしの聞き間違いとはなんだ、わしを老いぼれ扱いしよって・・・。わしからお花に話すからもうお前は引っ込んでいろ」と、カンカンだ。

 善兵衛から話を聞いたお花さん、店のため親のためと渋々とこの縁談を承知した。さあ、今夜は晴れの嫁入りで、与太郎は朝からそわそわニヤニヤ。一方のお花さんは長持に入って駕籠に揺られて与太郎の長屋へ向かう。そばには番頭が一人で付き添っている。途中まで来ると、

番頭 「おい、駕籠屋さん、長持は重くて大変だろ。ここいらでちょっと休んでくれ」と小銭を渡して駕籠屋を近くの屋台にやる。すぐに頼んであった知り合いの百姓が仔牛を引いてやって来る。長持からお花さんを救出して代わりに仔牛を入れる。

 何も知らない駕籠屋は長持を与太郎の家に運び入れた。灯りもろくに灯っていない薄暗い中で与太郎は長持の蓋を開けて、「お花さん、早く出ておいでよ」と、中に手を入れてまさぐった。すると生温かいふかふかの毛ざわりのような感じで、あちこちさわって行くと何か長い帯のような物を引っ張った。

 とたんに尻尾を引っ張られた牛が立ち上がって、「モォ~」、びっくりして飛び出すと家主と鉢合わせ、「どうしたんだ、こんな夜更けに裸足で・・・」

与太郎 「くらやみから牛を引っ張り出しました」


    


落語『お玉牛



亀戸天神社

亀戸宰府天満宮


        

683(2018・3)




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