「氏子中」
★あらすじ 越後の伯父さんの店を手伝っていた与太郎が、一年ぶりで帰って見ると女房のお光のお腹がボテレンとなっている。
与太郎 「おい、おれのいない間にその腹はどうしたんだ」
お光 「子どもが欲しいから氏神様の神田明神へお百度を踏んだお蔭で授かったんだよ」
与太郎 「いくら明神様のご利益だって、おめえ一人で子どもはこしらえられやしねえや。一体全体相手は誰なんだ」、苦し紛れに、
お光 「・・・相手は神田の明神様だよ」、いつもの与太郎さんなら、「はい、そうですかさすが氏神様はえらい」なんて調子だが、この噺の与太郎さんもうちょっと出来がいい。
与太郎 「ふざけんな。人をおちょくるのもいい加減にしろ」と、鳶の頭のところへ相談に行く。
頭 「やっぱりそうか。長屋の連中はみんな気が付いていたんだが・・・、亭主の留守に太え尼っちょだ、おめえの嬶(かか)あは。叩き出すのは簡単だがそれじゃあ相手の男が分らずじまいだ。子どもが生まれたら町内の男どもをお七夜の祝いで一杯飲ませると言って集めろ。みんな紋付を着て来るように言うんだ。荒神様の御神酒で胞衣を洗えば、胞衣に紋が浮かび上がる。それで相手の紋が分ると言うもんだ。その間男野郎をみんなで袋叩きにして、嬶あと子どもを熨斗(のし)つけてくれてやって、おめえは新しい嬶あと祝言あげりゃあ、一席二丁というもんだ」
与太郎 「新しい嫁さんって言ったてそんな簡単に見つからしねえよ」
頭 「心配すんねえ、おれが仲間内に話しておめえにぴったりなちょっとお利口な女を探して、世話してやらあね。大舟に乗った気でいろ」、小舟でも泥舟でも肥舟でも何にでも乗ってやろうと与太郎さんは覚悟を決めた。
臨月となって無事、「おぎゃぁ~」と生まれた男の子、案の定、与太郎さんとは似ても似つかぬ凛々しい顔立ち。お七夜となって酒が飲めると聞いて町内の男どもがぞろぞろと集まって来た。中には今年八十になる横町の隠居もいる。
与太郎 「頭、あんな爺さんまで来てますぜ」
頭 「近頃の年寄りは元気だ。”雀百まで踊り忘れず”で、焼かれるまで色気十分て有り様だ。油断も隙もあったもんじゃねえや」、与太郎は気が気でないが、お光さんは平気の平左でしゃ~しゃ~としてみんなに酌をして冗談などを言って笑っている。
さあ、胞衣を洗って見ると、
与太郎 「頭、紋なんか出やしませんぜ」
お光 「そんなもん(紋)、出るわけないだろ」
与太郎 「・・・おや、でもなんか出ている。・・・神田明神」
お光 「それ、ごらんね、あたしが言ったとおりだろ、この子は明神様の子なんだよ」、と勝ち誇っているが、
与太郎 「待てよ、まだ脇に何か出ている・・・氏子中」
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落語『町内の若い衆』
胞衣塚(六代将軍徳川家宣・根津神社境内) 「説明板」
神田明神
荒神宮セット(Rakuten)
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