★あらすじ 夏の暑い盛り、道修町の商家では遊山船で涼もうと支度に忙しい。旦那は板場の喜助を連れて行って料理をさせたいのだが、これが大の船嫌いで船アレルギー。
そこで幇間の一八が酒好きな喜助に上等な酒をぶら下げて頼みに行く。美味い酒をつぎながら、一八 「淀川の船遊び、旦那はんはあんたに船の上で料理させようちゅう趣向や、行とくれな」、船と聞いて震え出して、
喜助 「船ちゅうもんは板子一枚下は地獄や」、一八は一歩も動こうとしない喜助に酒を飲ませ、おだてたり、なだめすかしたりしてなんとか外へ連れ出して鍋島の浜までやって来た。
そこで待っていた店の連中が喜助を船に押し乗せてしまった。後から旦那や芸妓連やらみな乗って船は蜆川から淀川に出ると、あたり一面は遊山船でその陽気なこと。
芸妓 「まあ旦さん、ほんまに気持ちのええこと、やっぱり夏は船だんなあ」
旦那 「ほんまやなぁ、さあ、飲もうやないか」、酒盛りが始まってワイワイガヤガヤ。そのうちに、
旦那 「酒ばかりで肴がないがな。喜助はどうしたんや?」、一八が探すと喜助は船の隅でガタガタ震えている。
一八 「なんや、借りて来た猫みたいに。さあ、そこの生簀(いけす)に魚が入ったある。包丁もまな板もここにある・・・」と、震える手に無理に包丁を握らせた。その途端に船が少し揺らいで喜助は怖がって船縁をつかもうとして包丁を放してしまって川の中へドボーン。船の上ではわあわあ騒いでいる。
一方、川の中では魚たちが集まって世間話でもしているところに包丁が落ちて来た。
鮒(ふな) 「なんやけったいなもんが落ちてきたで」
鯉(こい) 「ほんにおかしなもんや。おっさんこれなんや?」
鯰(なまず) 「どれ、こりゃえらいもんが落ちてきたな。人間が魚を料理する時に使う包丁いうもんじゃ。上の遊山船の料理人が落としたんやろ」
鯉 「ほたら人間あそこで遊んでるのや。よっしゃ、どんなことして遊んでるか、見てきたろ」
鯰 「無茶したらあかん。人間に捕まったら包丁で料理されてしまうで」
鯉 「包丁はこっちにあるわ、心配いらんわ」と、向こう見ずな元気もんの鯉は水面めがけて一直線に泳ぎ浮かんで、
鯉 「おお、えらい賑やかにやっとるわい」、もっとよく見ようと欲張って、水面からピョ~ンと跳び上がった拍子に、ぶるぶる震えている喜助の目の前に飛び込んでしまった。
喜助 「うわぁ~、鯉が飛び込んだ」
一八 「なに、鯉が、これが”飛んで船に入る夏の鯉じゃ”、はよ捕まえて料理せんかい」、逃げようとする鯉と喜助、一八の大立ち回りが始まる。やっと喜助が捕まえたが、船が揺れて手の力が緩んだすきに鯉はスルリと喜助の手を抜けて川の中にドボーンと逃げ帰ってしまった。
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鯉 「うわ~い、やっと帰れたわい」
鮒 「おぉ、よう戻って来たな。どや、遊山船いうたら面白いか?」
鯉 「いやあ、あんなとこへ行くもんやない。すんでのとこで殺されそうやった。もう船はこりごりや」
鮒 「そないに船は怖いか?」
鯉 「板子一枚上は地獄や」
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