「夢の酒」


 
あらすじ うっとうしい梅雨の昼間、大黒屋の若旦那がうたたねをしてを見てニタニタ。女房のお花が起してどんな夢かと聞く。
若旦那曰く、向島に用事の途中で夕立にあった。雨宿りで軒下を借りた家で、年の頃25、6、色白の美人のご新造さんから家に入るように勧められ上がって、差し向かいで世間話をしているうちに御膳と酒が出てきた。酒は飲めない若旦那だが、勧め上手な色白な手でお酌をされ一杯が二杯。そのうちにご新造さんは三味線で小唄に都々逸で、「これほど思うにもし添われずば、わたしゃ出雲へ暴れ込む〜」なんてその色っぽいこと。

 つい飲み過ぎて頭が痛くなり、離れの四畳半に敷いてくれた床に入る。ご新造さんの介抱で良くなったが、今度はご新造が気分が悪くなったと言って、布団の裾から、長襦袢姿ですーっと入って来た。ここでお前に起こされたんだ。聞いていたお花の目はつり上り、やきもちで金きり声で泣き出した。

 この騒ぎを店にいた大旦那が聞きつけ、昼間から何事かと顔を出す。お花は泣きながら若旦那の”浮気話”を暴露する。大旦那はなるほど、お花が怒るのはもっともと、若旦那を叱る。これは夢の話だと笑いながら若旦那。夢の話なら泣いて騒ぐこともなかろうと、あきれて大旦那はお花に言うが、お花は「日頃からそうしたいと思っているから夢に出るんです」と、引き下がらず、大旦那に、その向島の家に行って「なぜ、せがれにふしだらなまねをした」と、女に小言を言って来てくれとごねる始末だ。

 向島の女の家と言っても、所詮夢の話、あきれて困って、開いた口がふさがらない大旦那に、お花はさらに追い打ちをかける。「昔から、淡島さまの上の句を詠みあげて寝れば、人の夢の中に入れるという」と言って、その場に布団を敷き、大旦那は無理やり寝かされてしまった。

 夢で向島の家に来た大旦那、なるほどいい女から招き入れられ、早速、三度の飯より好きな酒を勧められ、お花から頼まれた小言などとうに忘れてしまった。あいにく火を落としてしまってなかなか酒の燗(かん)がつかない。女はそれまで冷や(酒)をと差し出すが、大旦那は冷や酒でしくじっているので手を出さない。「燗がつくまで冷やで・・・」、「冷やはいけません」なんてやりとりをしているうちに、お花から揺り起された。
大旦那 「う〜ん、惜しいことをしたな」

お花 「お小言をおっしゃろうというところを、お起こし申しましたか?」

大旦那 「いや、冷やでもよかった」


    


桂文楽の『夢の酒【YouTube】




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