「湯屋番」

 
★あらすじ 大家(たいけ)の若旦那、遊びが過ぎて勘当中で、出入りの大工職人の熊五郎の家の2階に居候の身の上。何もしないで食っちゃ寝てばかりいるので、熊さんの女房は迷惑だ。女房にせっつかれ、熊さんは若旦那に湯屋へ奉公を勧める。

 紹介状を持って奴湯へ来た若旦那、早速女湯の入口から入ろうとする。湯屋の鉄五郎に外回りで、リヤカーを引いておが屑、かんな屑を集める仕事と言われた若旦那、もちろんノーで番台に座ると言い出す。ちょうど昼飯時で、その間鉄さんの代わりに番台に座ることになった若旦那、鉄さんが下りてないのに番台に上がろうとする喜びようだ。

 さて、番台に上がって早速、女湯を眺めるもこれがガラガラ、それに引きかえ男湯は混んでいる。汚いケツ、毛むくじゃらの足のオンパレードで色気も何もあったもんじゃない。あてがはずれた若旦那、こうなりゃ自分の妄想の世界にどっぷりと入るしかない。

 夕方、どこかの大会社の社長の2号さんが女中の清と一緒に湯屋に来て若旦那を見初める。ある日、若旦那が2号さんの家の前を通ると清が見つける。「今日は釜が壊れて早じまい」じゃ色っぽくないから、「母の墓参り」にしよう。すると2号さんが泳ぐように出てきて家の中に引っ張り込まれる。若旦那は自分の手を引っ張って痛い、痛いと大騒ぎだ。湯の客も番台の一人芝居に気づき面白がって見物だ。

 座敷にあがった若旦那、2号さんと酒を差しつ差されつ。その内、やらずの雨から雷がゴロゴロ、2号さんは怖がって蚊帳の中へ、すると雷がカリカリと鳴った途端、近所に落ちる。2号さんはを起して気を失う。若旦那、盃洗の水を口から口への口移し。

2号さん(芝居がかりになり) 「まあ、今の水のうまかったこと、雷さまは怖くとも、あたしにとっては結びの神」

若旦那 「さては今のはそら癪か」

2号さん 「うれしゅうござんす番頭さん」と佳境に入る。

見ている客は夢中になって、軽石で顔をこすって血だらけになったりしている。すると若旦那は頭をポカポカとぶたれる。

客 「馬鹿、てめえが間抜けなこと言っているから俺の下駄がどこかへ行っちまった」

若旦那 「そこの柾の下駄をはいてらっしゃい」

客 「で、どうすんだい」

若旦那 「順々にはかせて、一番しまいは裸足(はだし)で帰します」

  
江戸の湯屋
落語『浮世風呂
                              
居候の川柳 「居候三杯目にはそっと出し」・「居候泰然として五杯食い」・「居候角な座敷を丸く掃き」・「居候足袋の上から爪を切り」などいずれもこの噺の若旦那にお似合いでしょうか。
「居候亭主の留守にし候」なんてのもありますが、まあ落語に登場する人物ではないでしょう。それとも空想とはいえ若旦那は他人の2号さんと、いい仲になろうとしているので、この川柳の輩と同類項でしょうか。


橘家円蔵(月の家円鏡)の『湯屋番【YouTube】



銭湯の番台

   布袋湯(和歌山県湯浅町)

明治時代(大正かも)から続く現役の銭湯。
(2015年の夏に廃業したようだ。)
   甚風呂(戎湯)

幕末から四代にわたり昭和50年代中ごろまで営業していた。現在は湯浅町民俗資料館。


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