「花筏」
★あらすじ 「一年を二十日で暮らすよい男」と言われた相撲取りだが、地方巡業であちこちに稼ぎに回っていた。
提灯屋の徳さんの所へ、大坂相撲の人気力士、大関花筏の親方がやって来る。花筏が病気で巡業に出られないので顔が似ている徳さんに替わって行ってもらいたいと言う。徳さんは相撲なんぞ取ったこともなく、太っちゃいるが稽古で鍛えた体ではなく、ただの水膨れだと断る。親方は一日に二分の日当で、土俵入りの真似事だけして相撲は取らず、あとは宿屋で酒は飲み放題、食い放題で威張っていたらいいという。
一日中、提灯を張ってもせいぜい一分ぐらいしかならず、日に二分もらって酒は飲める、美味い料理も食えるとは、こんな旨い話はないと、徳さんは、「ほな、やらしてもらいまひょか」で話はついた。花筏になりすました徳さんは部屋の一行とともに巡業先の播州高砂に乗り込んだ。
「花筏は病気のため土俵入りのみ勤める」と前触れは出してはいたが、花筏を一目見ようと人気は上々、初日から満員御礼となった。化粧まわしをつけ、へっぴり腰で土俵へ上がり、怪しげな四股を踏む花筏とは真っ赤な偽りの提灯屋の徳さんだが、「花筏ー! 日本一!」とやんややんなの大盛況。
宿屋へ戻ると宿屋の亭主、勧進元、土地の顔役らが丁重に挨拶に来る。山海の珍味で舌鼓、若い女がチヤホヤで、徳さん飲んで食ってゴロっと寝てしまう。これに日当が二分とはこんなボロい商売はない。
巡業場所は順調に進んで行く中、土地の網元のせがれの素人力士の千鳥ヶ浜大五郎が玄人相手に勝ち進んで行く。いよいよ九日目、明日千秋楽の取り組みを行司が披露する。「千鳥ヶ浜に~花筏~」、びっくりして真っ青になった徳さんは宿へ帰って、約束が違うと大坂に帰ると荷物をまとめ始めた。困った親方、「大酒、大食いはまだしも宿屋の女子(おなごし)の所へ夜這いをかけたちゅうやないか。勧進元にあんな元気があるなら素人相手に一手や二手取ってもらってもようろう。と言われ千鳥ヶ浜との取り組みを承知してしまった」と明かす。
泣き顔の徳さんに、親方は八方丸く収まる手立てを伝授する。「千鳥ヶ浜の前で立派に仕切って、立ち上がったら何も見ないで両手を突き出して突進し、手が相手にさわったと思ったら後ろへコケろ。これなら怪我はなく、見物客も花筏でも病いには勝てなかったと納得、同情して花筏の名前にも傷がつかずに済む」という算段だ。なるほどと感心、納得した徳さん、二階へ上がって尻もちをつく稽古をしてグッスリと寝込んでしまった。
一方の千鳥ヶ浜、家に帰って親父に明日はいよいよ花筏と相撲が取れると話すと親父は、「お前は今度の興行に金を出している網元の息子だから、大坂の力士はわざと負けてくれていることが分からんのか」と説教し始める。「花筏はわざと負けた力士の無念を晴らすためにお前を土俵の上でたたき殺すぞ」、「花筏と相撲が取れれば腕の一本、足の一本ぐらい」とまだ分からない千鳥ヶ浜に、親父「親の心、子知らずじゃ。相撲でも何でも取れ、勘当じゃ、この親不孝者」、さすが孝行息子の千鳥ヶ浜、これには参った。相撲は取らないが、花筏の取り口だけは見に行くということで落着した。
さあ千秋楽、まわしをつけて浴衣を羽織った千鳥ヶ浜は土俵下で見物だ。徳さんは上手く後ろへひっくり返ることばかり考えている。呼び出しの、「東~花筏~、西~千鳥ヶ浜~」で、千鳥ヶ浜、芋わず浴衣を脱ぎ捨て引き込まれるように土俵に上がってしまう。一方、初めて土俵へ上がる徳さんは、青ざめてブルブル震えながら土俵へ上がった。
土俵の中央で仕切る二人、徳さんは千鳥ヶ浜はどんな顔をしてるのだろと、恐い物見たさでよせばいいのにヒョイと顔を上げた。徳さん「ああ、えらい顔しとる。こっちが尻もちつく間もなくピーっと引き裂かれてしまうぞ。大坂で提灯張ってりゃよかったものを二分の金につられて、ここで命を落とすとは」、これがこの世の見納めかと思わず大きな涙が「ポロリポロリ」、「南無阿弥陀仏(なんまんだぶつ」。
これを見た千鳥ヶ浜、「ああ、やっぱりお父っつあんの言ったとおりだ。こいつ俺を殺す気だ。そやけど可哀そう思うて涙流して念仏唱えてくれてる」、これがこの世の見納めかと、涙ポロポロ、「なんまいだぶつ」。
行司が軍配を上げるや徳さんは両手を広げて前へ突進した。怖い怖いと取る気も失せている千鳥ヶ浜の横面に徳さんの両手が飛んできて思わずヨロヨロ、ばったり。先にコケるはずが相手に先を越された徳さん土俵上でウロウロ。行司が「花筏~」の勝ち名乗り、
見物人➀ 「どうです、やっぱり花筏は大坂の大関、千鳥ヶ浜なんぞいくら威張ったかて、高砂の田舎相撲の素人や、花筏がパァーと張ったら、バタッと飛んでしもたがな」
見物人② 「あれ張り手ちゅうやつで、花筏は張るのが上手いなあ」
張るのは上手いはずで、提灯屋でございます。
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「勧進大相撲土俵入之図」(「大江戸デ-タベ-ス」)
相撲が出て来る落語『阿武松』・『稲川』・『佐野山』・『千早振る』
★三遊亭圓生の『花筏』【YouTube】
尉と姥の像(宝殿駅前(JR山陽本線)) 「説明板」
ここは高砂市で、「♪高砂や~」の発祥地。『山陽道』
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