★あらすじ 葭町の桂庵の千束屋(ちづかや)の紹介で日本橋浮世小路の料亭百川(ももかわ)に奉公することになった田舎者の百兵衛さん。二階で手が鳴り早速、用を聞きに行かされる。
二階の客は魚河岸の連中だ。百兵衛さんが自分のことを「主人家の抱え人」と言ったのを、早呑み込み、早合点の初五郎が「四神剣の掛け合い人」と聞き違える。
去年の祭りで金を使いすぎて、祭具の四神剣を質に入れてしまって、そのままになっているのを隣町から掛け合いに来たのだと早とちりしたのだ。百兵衛さんを隣町の大物と勘違いし初五郎は、下手に出て、事情をよく呑み込んでくれと言って、百兵衛さんにくわいのきんとんを丸呑みさせ帰す。
下に戻った百兵衛さんが大きなくわいを呑み込まされ、柱にもたれて涙ぐんでいると二階でまたお呼びの手が鳴る。二階へ上がった百兵衛さんを見て、魚河岸の連中もやっと店の奉公人だと分かる。連中は、百兵衛さんを長谷川町の三光新道の常磐津の師匠の歌女文字(かめもじ)を迎えに使いに出す。
途中で名前を忘れた百兵衛さんは、「”か”の字がつく名高い人」と聞いて歩き、鴨池玄林(かもじげんりん)という外科医者の家へ飛び込んでしまう。取次ぎに出た者に、
百兵衛 「河岸の若い方が、今朝(けさ)がけに四、五人来られやして、先生にちょっくらおいでを願えてちゅうでがすが・・・」、取次ぎ人はこれ聞き違え、鴨池先生に、「若い者が四、五人袈裟がけに斬られた」と取り次いだ。
先生はまた喧嘩だと思い、手遅れになるといけないから卵を二十、焼酎を一升、白布(さらし)を五、六反用意するように言いつけ、百兵衛さんに薬箱を持たせて先に帰した。
百川へ帰ると、河岸の連中が薬箱を見て三味線を入れるにしては小さすぎるし、百兵衛さんの言う、手遅れ、卵、焼酎、白布、見舞いに行く、などの意味が分からないでいると、またもや早呑込みの初五郎が、箱は小さいが小さな折れ三味線だろう。焼酎と生卵を飲んでさらしを巻いてやるんだろうなんて、こじつけて、もっともらしいことを言い始める。
そこへ鴨池先生が上がって来て、「怪我人はどこにおる」
河岸の客 「おや、鴨池先生、なにかの、お門違いでは」
鴨池先生 「いや、門違いではない。薬籠が来ておる」、なんてやり取りがあるうちに、百兵衛さんが間違えたことだと分かり、連中は百兵衛さんを呼び出す。
河岸の客 「手めえぐれえ間抜はねえや、抜け作」
百兵衛 「抜けてる? どれくれえ抜けてますか?」
河岸の客 「てめえなんざ、みんな抜けてらい」、百兵衛さん指を折って数えながら、
百兵衛 「か・め・も・じ・・・か・も・じ・・・いやたんとではねえ、たった一字だけだ」
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