「意地くらべ」

 
あらすじ 下駄屋の旦那の所へ八五郎が金を借りに来る。50円もの金は手元にないと断るが、借りると決めて来たのだから、貸してくれるまでここを動かないという。

 旦那は「無い袖は振れない」と断るが八五郎は、ある隠居から無利息・無證文・無催促で借りた金で、隠居は楽な時に返せばいいというが、ひと月経ったら返そうと決めていたので何が何でも貸してくれという。いきさつを聞いた下駄屋の旦那は納得し、あちこち回って50円都合して八五郎に貸す。

 八五郎は隠居の家に行き50円を返そうとするが、楽な時に返せばいいと言った金で、どう見ても楽にできた金ではないようだから、受け取れないという。八五郎は受け取ってくれまで帰らないというが、隠居はまごまごしていると木刀で頭をかち割ると、えらい剣幕でおどす。

 仕方なく八五郎は下駄屋に戻って金を返そうとするが、無理矢理作らされた金を今更受け取ることはできないといい、婆さんに薪割りを持ってこいという始末だ。婆さんは八五郎に無尽に当たった楽な金などと「嘘も方便」で、隠居への金の返し方を入知恵するが、嘘が大嫌いな八五郎には理解不能、拒絶反応だ。

 困った八五郎は再び隠居の家に行く。無利息・無證文・無催促で貸してくれ、楽な時に返せばいいと言ってくれた情けの金はひと月経ったら返さねばすまないと心に決めていたというと、隠居はそれならばひと月経ったら受け取ろう、明日の昼ごろでひと月だから、それまでは受け取れないという。八五郎は「それまでここに居座る」といい、隠居も「ここに座って動かない」で差し向かいだ。

 隠居はお互い仇同士でもないのだから、一杯やりながら、すきやきでも食って明日まで座っていようと提案。むろん八五郎もOKだ。隠居はせがれ牛肉を買いにやり、二人は飲み始めるが、2時間経ってもせがれが帰って来ない。

 心配した隠居が探しに行くと、道の真ん中でせがれが見知らぬ男と向かい合って立っている。どっちも相手がどくまでは動かないと強情だ。

 隠居も「どっち勝つか見届けてやる」と動かない。だが、腹をすかせて牛肉を待っている八五郎のことを思い出す。

隠居 「客人が腹をすかしているから牛肉を買いに行きな」

せがれ 「そんなことをすればあたしが負けになります」

隠居 「心配ない その間俺が代わりに立っててやるから」


      
 「受け取れ」、「受け取れない」は『井戸の茶碗』、『三方一両損』と同じですが、この噺の登場人物は意地っぱりというより、『強情灸』のような悪強情でしょう。まともなのはちょっとだけ顔を出す、下駄屋の婆さんだけ。


柳家小三治の『意地くらべ【YouTube】


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