「軽業講釈」(東の旅F)

 
あらすじ 軽業小屋の隣はムシロ張、青天井の講釈小屋で、立錐の余地のない大入り満員だ。出てきた長髪で刀を差した講釈師の先生、始めは口を動かしてはいるが、何を言っているのか分からない。

講釈師 「・・・・・・・・・この度、当神社屋根替え正遷宮につき、わたくしをお招きにあずかり、厚く御礼を申し上げます」と挨拶し、「難波戦記」に入る。「慶元両度は難波の話。頃は慶長の十九年も相改まり、明くれば元和元年五月七日の儀・・・・軍師には真田左衛門尉海野幸村・・・・・」

(隣の軽業のお囃子の三味線、太鼓の音が大きくなる) 

 講釈師は、「軽業ぁ、軽業ぁ〜」と軽業小屋の男を呼びつけ、ドンチャン、 ドンチャンと囃されると、講釈がお客の耳に入らないから静かにしてくれと頼む。男も承知してお囃子部屋へ行って注意して来るという。

 講釈師は再び「慶元両度は難波の話・・・」と始めから語り出す。すぐにお囃子の音が高くなって響いて邪魔をする。講釈師の先生、「軽業ぁ〜軽業ぁ〜」とまた呼びつける。軽業小屋の男は、「表が忙しくてお囃子部屋へ言うのを忘れていた、すぐに言う」と帰って行く。一安心した講釈師の先生、「軍師には真田左衛門尉海野幸村、同名倅大助幸安・・・・」と続きから始めた。

 さて隣の軽業小屋では口上言いの長口上から、早竹の寅吉の門人というわや竹の野良一太夫の綱渡りの曲芸が始まる。・・・・(このあたりは『軽業』で)・・・・「野田の古跡は下がり藤の軽〜る業、軽業〜!」で、お囃子の音も頂点に達した。

一方の講釈師 「・・・・天地も割るる大音声(おんじょ〜)、やあ、やあ遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ・・・・」と声高々だが、如何にせんお囃子の音にはかなわない。またもや「軽業ぁ〜 軽業ぁ〜!」と呼びつける。

 今度やって来た男は、「お囃子が大きい?こっちは囃子が命や、先生とこも商売かも知れんけど、こっちは命懸けの商売や。なに言うと んねん、つまらん講釈の眠気ざましになるわい。この講釈師、貝杓子、お玉杓子」と強気だ。

 怒った講釈師、「軍記読みと申して帯刀を許 されておるのじゃ。この刀が目に入らんか」

男 「そんな 刀が目に入ったら、俺ぁ手品師するわ」、堪忍袋の緒が切れた先生、刀を抜いて男に斬りかかった。斬られたらたまらんと逃げ出した男を追って境内をグルグル。そのうちに男は神社の外へ逃げて行ってしまった。

 諦めて帰って来た先生にお客は、口も悪いけど足も早い男だ。先生が追 いかけて行っても追いつかなかったと慰める。

講釈師 「お客さん、あれを称して悪事千里を走ると申すのじゃ」



       
真田十勇士(難波戦記)
九度山町HP』から



桂文枝(五代目)の『軽業講釈【YouTube】





表紙へ 演目表へ 次頁へ
アクセスカウンター