★あらすじ 神田竪大工町の大工の熊五郎は腕はいいが、大酒飲みで遊び人。96才で大往生した伊勢六の隠居の弔いの山谷の寺でへべれけに酔っぱらう。
熊五郎の酔態をたしなめた近江屋の隠居にからみ、地獄・極楽の話から近くの極楽の吉原に行こうと誘うが断られる。そんな金があるなら、「女房にうまい物を食わせ、子どもにましな着物でも買え」と周りから意見され、熊五郎はぶち切れて、「なに言ってやんでえ、おれがかかあに何を食わせようと、がきになにを着せようとおれの勝手だ。余計な事をいうな」と、悪口雑言をはきながら、弁松の別あつらいの赤飯(こわめし)の弁当の折を懐、袂、背中に入れて寺を出る。
途中で会った隣町の紙屑屋の長さんを、今日は棟梁から前借した50円があるからおごると誘い、紙屋の旦那ということにして吉原に向かう。途中で酔いで足がふらつき、どぶに落ちそうになる。あわてて長さんが背中から押さえた。すると背中に入っていた弁当からがんもどきの汁(つゆ)が流れだしふんどしにしみ込んでしまう。
「吉原に回らぬ者は施主ばかり」、「弔いが山谷と聞いて親父行き」、なんて川柳もある。 山谷堀の日本堤から見返り柳と進み、吉原の大門をくぐって吉原遊郭へ入る。見世の若い衆に「弔いの帰りだ」というと、「はか(墓)いきがいい」なんてと言われ気に入って弁当をあげ見世に上がる。
見世先で紙屑屋、女郎をからかい広い梯子(はしご)を上って座敷に入る。豆どんをからかい、弁当をあげようとするが、「いりまへんわ」とすげなく断られ熊五郎は大むくれだ。そこへ取り成しに入った若い衆にさっきあげた弁当の味を聞く。
若い衆 「大変けっこうで、さすが弁松さんですな。しかしがんもどきのつゆがちょっと少ないような気がいたしまして」、紙屑屋を指さして
熊五郎 「この野郎が俺の背中を押すもんだから、汁がしみ出してふんどしにしみ込んでしまった。食いかけはあるか、こっちへ持って来い」
若い衆 「取り替えていただけますか」
熊五郎 「いや、今絞ってかけてやる」
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