「猫怪談」


 
あらすじ 幼い頃に両親を亡くした与太郎を育ててくれた養父が死んだ。与太郎は恩情を受けた養父の死が悲しくて遺体の枕元から離れられないでいる。見かねた家主早桶を用意し、家主が提灯を持ち、与太郎と羅宇屋甚兵衛に早桶をかつがせて、四刻頃に深川蛤町の長屋を出て谷中の瑞輪寺に向かった。

 不忍池の池之端に差し掛かる頃には真夜中になってしまう。臆病者の甚兵衛さんは怖くてしょうがない。前をかついでも、後ろをかついでも怖くて、そうこうしているうちに早桶の底が抜けて、タガが外れてばらばらになってしまった。

 家主と甚兵衛さんは与太郎に仏の番をさせて早桶を買いに行った。寂しい所へ一人残された与太郎は気持ちのいいものではない。

 壊れた早桶からはみ出ている養父の遺体に話しかけながら待っていると、目の前を何か黒い物が横切った。すると遺体がむっくりと起き上がって正座をして、与太郎の顔を見て嬉しそうに「ヒィヒィヒ」と笑った。

 びっくりした与太郎が平手打ちを食わせると遺体はまた横になってしまった。何か言いたいことでもあったのかと、「お父(とっつ)あん、もう一度起き上がってくれ」と頼むと、今度は立ち上がってピョコピョコと風と共に何処かへ行ってしまった。

 しばらくすると早桶を持って家主と甚兵衛さんが戻って来た。事の顛末を聞いた家主は、「死骸へ魔が差したんだ。折角、底が抜けた早桶の代わりを買って来たのに死骸がなきゃどうしようもねえじゃないか」

 そばでは与太郎の話を聞いて甚兵衛さんはががたがた震えている。
家主 「甚兵衛さんどうしたんだい?」

甚兵衛 「抜けました。抜けました」

家主 「えっ、今買って来たばかりの早桶の底がまた抜けちまったのかい?」

甚兵衛 「いえ、今度はあたしの腰が抜けました」

 翌日、死骸が根津の七軒町の上総屋という質屋の土蔵の釘へ引っ掛かって、もうこれ以上流さないでくれと言っていたとか。与太郎たちは三つ目の早桶を持って現場に急いだ。

 一つの遺骸で三つもの早桶を買ったという、「谷中奇聞猫怪談」の一席。


  

        


不忍池(「写真の中の明治・大正」

不忍池



不忍池



瑞輪寺 「説明板





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