「猫の恩返し」


 
あらすじ 八丁堀玉子屋新道に住む棒手振りの魚屋の金さん。大晦日にひとり者の気楽さから悪友に誘われて博打に手を出して、仕入れ用の三両までもすってしまった。

 金さんは七、八年前にゴミ溜めに捨てられていた仔猫を拾ってと名をつけ、たいそう可愛がっている。毎晩、駒に魚をやり、駒が美味そうに食べるのを見ながら、酒を飲むのを楽しみにしている。

 この日も博打で三両すった金さんが家に帰ると、駒だけはいつものように、「ニャ~ニャ~」鳴いて甘えて出迎えてくれる。駒を相手に、博打で三両すって二日の朝の買い出しに行けなくなったと愚痴を言いながらちびちび飲んで、「猫に三両の工面はできねえからなあ」と、ぼやいて寝てしまった。夜中に目を覚ますと枕元に小判が三両ある。そんな馬鹿なと頬っぺたをつねって見たが夢ではない。

 元旦の朝早く、顔なじみに質屋の伊勢屋の番頭に小判を見せると間違いなく本物という。喜んだ金さん、家に帰って小判を隠し、朝湯に入ってさっぱりして帰り、こいつは春から縁起がいいわいと酒を飲み始めた。

 そばにちょこんと座って、いっちょ前にお酌でもしているような駒に、「この小判はお前が持って来たんじゃあるめえ」と話しかけると、「ニャ~ン」。酔って来た金さん 「どうせくわえて来るんなら、もっとくわえて来いよ」と、冗談なんか言いながら駒を相手に長々と飲んで寝てしまった。

 二日の朝、買い出しの帰りに堀留のひいきの旦那のところへ年始の挨拶と初荷を持って行くと、番頭が浮かない顔をしている。

金さん 「番頭さん、正月早々、なにかあったんですかい?」

番頭 「大晦日に小判三両がなくなったんだ。外から泥棒が入った様子もなく、店の者でそんな不届きを働く者はいない。おかしいと思って気をつけていると、昨日の夜にガタガタと大きな音がするんだ。音のする座敷に行って見ると大きなが用ダンスを開けようとしている。鍵が掛かっていて開かないのに、そこは畜生の浅ましさだ。さては大晦日の三両もこの猫の仕業と、みんなで棒で追い回したんだ。猫はすばしっこくてなかなか捕まらない。やっと座敷の隅に追い詰めてみんなで棒で叩いたら死んでしまった。こらしめてやるだけで殺すつもりはなかったのだが、正月早々、猫とはいえ無益な殺生をしたと心持が悪いんだよ。これから旦那の言いつけで回向院へ葬りに行くところなんだ」

 小判三両と猫に心あたりのある金さんが猫の死骸を見ると、やっぱり駒だった。金さんは涙にくれながらこれこれしかじかと事情を話した。これを聞いた旦那は、猫とはいえ、拾って可愛がって飼ってくれた金さんへの恩を忘れない立派な猫だと感心する。旦那は金さんに三両はなかったことにして、他に五両を与えて猫を回向院にねんごろに葬ってやれという。

 早速、金さんは両国の回向院に駒のために立派な墓を作ってやった。それが鼠小僧次郎吉の墓の隣にある猫塚だ。

 それからというもの金さんは、博打はもとより酒もやめて魚屋一筋で働いた。魚を見る目は確か、売るに来る時間も正確で客も増え、三年も経たないうちに表通りに立派な魚金の店を持つことが出来た。すぐに堀留の旦那の世話で気立てのいい嫁さんをもらい、夫婦そろって魚金より猫金で評判の店を大繁盛させていった。


    



堀留公園
東堀留川の和国橋跡あたり 《地図



猫塚・鼠小僧墓(回向院) 「説明板
もとは鼠小僧墓の右側に露座していた。
猫定』の猫塚もこの塚のことのようだ。


        

618(2018・1)




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