「ろうそく」


 
あらすじ 江戸見物から帰って来た吾作治郎兵衛庄屋の家で村人を集めて得意げに土産話に花を咲かせている。

庄屋 「江戸てえところは面白そうだな。話はそんぐれえにして何か土産物はねえんか?」

吾作 「土産もうんとこさ買って来やした」と、江戸の土産を広げた。みんな目を白黒させて見ているが、一つだけ何か分からない物がある。

庄屋 「これは何だべえ? 細くて白くてつやつやして、一本毛みてえのが生えて ・・・わしゃ、この年んなるまでこんな物見たことねえが」

治郎兵衛 「庄屋さんが見たことねえ物、ほかに村で知ってる者なぞおりゃせんがな」と、いうことでこれは一体何なのかと、あれやこれやと詮議が始まった。

茂助 「わしは山越えた海辺の隣村さ行った時に食った白い身の魚によう似とるぞ。醤油で煮てあっさりしたいい味じゃったがのう」

庄屋 「そうか、すぐに鍋で煮てみるべえ」、婆さんに煮させたものをまずは庄屋さんが味をみて、

庄屋 「こりゃあ、ズルズルになっちまって油がぎらぎら浮いて、えらい臭いがするのう」、どれどれとがっついた村人も口の中に入れてびっくり、顔をしかめている。そのうちにみんな胸かむかついてきた。

庄屋 「こらぁ、魚ではねえ、伴天連の毒ではなかんべえか?」、みんなペッペと吐き出し始める。ちょうどそこへ江戸からの商人が道を聞きにやって来た。すぐに異様な臭いに気づいて、

商人 「この臭いはなんですかな?」、庄屋がこれこれといきさつを話すと、商人は鍋の中を見て、

商人 「そんな馬鹿な、これは食べる物ではありませんよ。これはろうそく(蝋燭)と言って火を付ける物ですよ」

庄屋 「へっ!火の付く物で・・・えらいこっちゃ、みな火の付く物食べてしまったぞ。腹ん中で火事が始まるべえ・・・」で、大騒ぎの大慌て。

誰かが、「身体が燃えて来ん前に、外から冷やしたらよかんべえ。鎮守の森の八幡池に飛び込もう・・・」と、みんなでお池にはまって雁首並べて防火訓練?だ。

 そこへ一服しようと一人の六部がやって来た。見ると池の中から大勢の人の首が出ている。
六部 「ややっ!奇怪な、真昼間から狐狸妖怪が悪さをしよって。懲らしめてやるから見ていろよ」と、火を見せれば怖がって正体を現して逃げ出すだろうと、煙草に火を付けて池の中にポンと放り込んだ。

池の中の連中 「火の用心!火の用心!」


   


        

677(2018・3月)




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