「関の津富」


 
あらすじ 俳諧師関の津富(しんぷ)は、大酒豪で浪費家で変わり者。女房は愛想をつかして出て行ってしまったが、無頓着でおかまいなし。

 呑気なもんでぶらりと江戸を出て旅回り、「・・・予もいづれの年よりか、片雲の風に誘はれて、漂白の思ひやまず・・・」なんて心境ではさらさらない。

 行き当たりばったりで全国を俳諧行脚というより、あちこちと徘徊して早や十年の歳月が流れた頃、江戸へ戻って来た。その姿は乞食同様で一文無し、腹が減ってしょうがない。

 神田お玉が池あたりまで来ると、やっとうの掛け声が聞こえてきた。見ると千葉鈍作の門札の出た剣術の道場だ。「武者修行の者と言えば飯を食わせてくれて、わらじ銭もくれるだろう」、むさ苦しい格好で門を叩いた。

 予定どおり酒肴を馳走になったが、
鈍作 「折角、お越しになったのだから、一手、お相手願いたい」ときた。津富先生、断り切れずに木刀を握ったが、もとより素人のへっぴり腰だ。

鈍作 「う、これは隙だらけと見せかけて誘い込む剣法か」、なんて勘ぐったりもしたが、すぐに見破り、「エイッ!」と大上段から唐竹割の一撃で津富は伸びてしまった。

 バケツで水をかけられ息を吹き返して、俳諧師だと名乗ると、
鈍作「おぉ、左様ですか、座興に一句所望いたす」

津富 「夕立に打たれてふとる田面(たのも)かな」と詠んで立ち去った。

 ほろ酔い加減で経師屋をのぞくと、がらくたばかりの軸の中に、猿と月を描いた軸が掛かっている。その出来栄えの見事さに津富は思はず店に入っていきなり軸に、「猿猴の片肌寒し冬の月」とを書いてしまった。

 驚いた主人、「なにをするんだ。これは雲州公様から預かった英一蝶の画だぞ。とんでもないことをしてくれた。これから謝りに行くから一緒に来なさい」と、津富をお屋敷に連れて行く。

 主人から話を聞いた殿さま、「一蝶の画に落書きとな、不届き千万、無礼なやつ」とお冠だが、軸の讃をしばし見て、「・・・この画にしてこの讃あり」と大絶賛。喜んだ殿さまは三人で酒盛りで和気あいあい。

 たらふく飲んで食った津富先生は殿さまの前で寝込んでしまった。「まあ、よいではないか」と殿さまは着ていた羽織を掛けてやる。やっと目を覚ました津富、羽織を押し頂いて、「下伏して花を着かぶる果報かな」と詠んで屋敷を出る。

 羽織を売っ払ってまた一杯やろうと柳原の土手まで来ると、和泉橋の脇で寝ていたお菰さんの頭に蹴つまづいてしまった。「すまん、すまん」と平謝りして、

津富 「夢破る風の粗忽や春の宵”、どうだ面白いだろう、これで勘弁してくれ」

お菰さん 「面白くもなんともござりません」

津富 「おお、面白くないか、正直者はおれは大好きだ。どこが面白くないか聞かせてくれ。おれもそのお菰の上に座って聞くから」

お菰さん 「あなたがお座りになるようなところじゃございません」、まあ、津富の身なりもお菰さんと変わらないのだが。大事に抱えている殿さま拝領の羽織は別にして。

津富 「いやいや、俳諧に貴賤はない。わしの目から見れば、お主は菰(雲)の上人に見える」



  



経師(彩画職人部類・「ちょっと便利帳」より)



英一蝶の墓(承教寺(港区)) 「説明板
中原街道①


        
660(2018・2)




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