「関の扉」
★あらすじ 今年も町内恒例の素人芝居の日がやって来たが、なかなか幕が開かない。伊勢屋の若旦那がまた仮病を使って来ないのだ。
今回は関の扉(積恋雪関扉)(つもるこい ゆきの せきのと)で、若旦那の役は小町桜の精が姿を変えた遊女の薄墨で、役不足ということはない。
仮病ではなく本当の病気かも知れないが、今さらそんなことはどうでもいい。早く代役を見つけなければならないが、急で無理な話で誰も引き受け手はない。
切羽詰まって関守関兵衛(大伴黒主)役の家主の長兵衛が飯炊きの権助に頼みに行く。去年も権助は若旦那の代役で非人の権平役を一分で引き受けたはいいが、見物人から飯の炊き方でやじられて舞台を台無しにして頼みたくはないのだが、もうそんなことを言っている暇はない。
権助さん、小町桜の精の役と聞いて大乗り気で、二つ返事でOK、すぐに科白の稽古。さすが芝居好きのことはあってすぐに覚えて得意顔、「・・・あたしゃ撞木町から来やんした」という科白がとくに気に入ったようで、何度も繰り返しながら芝居の小屋へ行く。
世話役は権助に重い鬘(かつら)と何枚もの着物を着せてひと安心し、ご苦労さんと権助に差し入れの酒を勧める。酒好きだがそんなに強くない権助はすぐに酔ってしまう。
権助さん、ふらふらしながら舞台の桜の木に裏に隠れて出番を待っていたが、酔ってグウグウ寝てしまった。いざ出番となったが薄墨が出て来ないので見物人もざわつき、やじり始めた。
こりゃまずいと、世話役が、「権助、出番だ、早く出ろ」と押したもんだから、まだ夢うつつの権助さん、鬘と着物の重みと酔いとで、よたよたふらつきながら舞台へ現れた。
見物人1 「おお、やっと出て来たぞ。おい、やけにふらついているじゃねえか」、
見物人2 「桜の精だからわざとふわふわしてるんだ。なかなか上手いもんじゃねえか。よっ、日本一! 飯炊き屋!」、だが権助さんは足元が定まらず、舞台から足を踏み外しそうになる。
見物人1 「おお、あぶねえぞ、どうした権助、小町桜の精!」
権助 「今日は桜のせいではねえ、酒のせいだ」
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『小町桜の精』(『新形三十六怪撰』)
「積恋雪関扉」(歌舞伎演目案内)
墨染寺(ぼくせんじ)
関白藤原基経の死を悼んだ上野岑雄が、
「深草の 野辺の桜し 心あらば 今年ばかりは 墨染めに咲け」
と詠んだところ薄墨色の桜が咲いたという。墨染色は喪に服す時の色。
『京街道(東海道五十七次)①』
墨染井(右)と小町塚少将塚(正面奥) (劤浄寺境内) 《地図》
ここは小野小町にふられた深草少将の屋敷跡 「説明板」
小野小町ゆかりの地は『洒落小町』の記載。
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