★あらすじ お茶屋遊びが過ぎた船場の大家の一人息子の若旦那。近頃はミナミの芸者の小糸に入れ上げていて親が意見しようが、番頭が諌めようが馬耳東風、馬の耳に念仏、暖簾に腕押し、で一心不乱に通いつめる。
どうしたものかと親類が集まって親族会議が開かれる。親旦那は勘当も考えているというが、京都のおじさんは、京へ連れて行って高瀬舟の綱引きをさせると言う。重労働ですぐに体を壊し死んでしまうと言う算段だ。
丹波のおじさんは、田舎へ連れて行って野良へ出て牛を追わすと提案。言うことを聞かない牛の尻をけとばして、怒った牛の角に突かれて死んでしまうという寸法だ。
兵庫のおばさんは、釣り好きの若旦那を嵐になりそうな日に須磨の浦に壊れかけた舟で釣りに出せば、舟が転覆してフカの餌食になって跡形なし、後腐れなし、葬式もなしで金もかからず万事好都合と、血の繋がる縁者とも思えない言いようだ。
哀れ若旦那の行く末はこの三者択一で決まりそうな気配だったが、そこへ番頭が来て、乞食になってもらうと言い出す。そうすれば金の尊さ、金を稼ぐ難しさが身に染みるだろうと、なるほど正論、名案で一同も納得だ。すぐに乞食の衣装を女中のお清、お竹、飯炊きの権助が作って準備万端という。
ここまでの顛末を丁稚の定吉から聞き出した若旦那、怒って親類一同が集まっている部屋に乗り込む。番頭に「できるものなら乞食にして見ぃ」と居直るが、逆に番頭からきつく意見され、言い返す言葉もない。ついには勘当は免れたものの、番頭の発案で百日間の蔵住まいという運びとなった。
一方、若旦那と相思相愛の芸者の小糸は連日のように文を送るが梨のつぶてだ。番頭が文をしまい込んで若旦那に見せないのだ。八十日目を最後に文は来なくなり、番頭は「色街の恋は、八十日か」とつぶやき、胸を撫で下ろすとともにがっがりもした。
もしも文が百日続けば二人の仲をなんとかしようと大旦那に相談するつもりでいたのだ。そして若旦那の百日の蔵住まいも終わった。蔵から出た若旦那はやっと小糸への熱も下がり、目が醒めたようで、今までの行状を反省する。
番頭は小糸からの最後の文を若旦那に手渡す。それにはかすれて乱れた字で、「この状をご覧に相成りそうろう上からは、即刻のおん越しこれ無き節には、今生にてはお目にかかれまじく候」とある。
驚いた若旦那は、蔵から出られたお礼参りに天神さんへ行くと言って家を出る。途中で伴の丁稚を巻いて、ミナミの小糸の家へ行くと、女将は仏壇を開けて白木の位牌を見せ、若旦那に恋い焦がれて文を出し続けたが、梨のつぶて、何の返事もなく、そのうちに飯が喉を通らなくなって病の床についた。やせ細った小糸は若旦那からこしらえてもらった三味線を弾きながら死んで行ったと語る。
若旦那は線香を上げ、小糸に謝り、小糸を偲んで仏壇の前で酒を飲み始める。すると仏壇に供えてある三味線がひとりでに鳴り始めた。若旦那は涙を浮かべながら耳を傾けていると、「地唄の雪」を奏でていた三味線が途中でピタリと止まった。
若旦那 「何でや?三味線の糸が切れたん違うか?ちょっと見て」、仏壇の三味線を見て、
女将 「糸は切れてぇ しまへん」
若旦那 「わしの好きな地唄の雪やないか、何で終いまで弾いてくれへんのや」
女将 「若旦那、もう小糸は三味線を弾かしまへんは」
若旦那 「なんでや」
女将 「お仏壇の線香が、ちょうど立ち切りました」
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