「親子茶屋」

 
あらすじ
 船場の商家の親旦那が放蕩息子、極道な若旦那に小言だが、日常茶飯事、慣れっこになっていて痛くもかゆくも感じない若旦那。

親旦那は、と通いつめている芸妓とどっちが大事かとつまらない質問を発した。むろん若旦那、芸妓に決まっている。なじみの芸妓は、若旦那がもし勘当になっても三味線一つで養って、東京にでも浮かれ旅で行って、葭町柳橋にでも身を沈めて荒稼ぎして、2、3年も経てば店でも持って二人仲良く暮らそうと可愛いことを言っているとの言い草だ。

 だが、これが親ともなるとそうは行かない。火事で身上が丸焼けたら無一文、三味線はおろか何の芸もなしで、東京へ行くどころか高津の黒焼屋でも引き取ってくれない。そんな三文の値打ちもない老いぼれ親父と、水も垂れるような綺麗な芸者を比べることからして、秤(はかり)にも天秤にもかからない」と、あまりの若旦那の言いように、親旦那は、「やかましい、買い手があったら親売り飛ばすとは・・・、おのれのような者は片時も家に置いとくわけにはいかん。 とっとと出て行け!」とぶち切れた。

 そこへ、「まぁ、まぁ」と割って入った番頭さん、親旦那に気晴らしに島之内の万福寺さんで、ありがたいお説教でも聞いて来たらと勧める。この提案にすぐ乗っかった親旦那、数珠を持ってポイと外へ出て南に南に、島の内と思いきや万福寺を後目(しりめ)にミナミヘ。戎橋を渡って難波新地のお茶屋へと入った。

 何を隠そう親旦那は若旦那より数段上の遊び人なのだ。二階の座敷で綺麗どころを侍らせて酒を飲みだした親旦那、いつものように扇子で目隠しの鬼ごっこの「狐つり」を始める。これしか知らない親旦那を芸妓らは馬鹿にして、階段の所まで引っ張って行って、後ろからボ〜ンと突いたらいい、なんて恐ろしいことを言っている。

 「♪やっつく、やっつく、やっつくな♪ ♪釣ろよ、釣ろよ、信太(しのだ)の森の、狐どんを釣ろよ ♪やっつく、やっつく、やっつくな ♪釣ろよ、釣ろよ、信太の森の、親旦那を釣ろよ ♪やっつく、やっつく、やっつくな ♪「もっとこっちへおいなはれ」 ♪「そっちへ行ったら落とされる」 とちゃんと親旦那はお見通しだ。

 そこへ親旦那の後に家を出た若旦那が通りかかる。にぎやかな「狐つり」が耳に入る。こんな珍しい、粋な遊びをするのはどんな人だろうかと興味津々、店へ入り女将に「狐つり」の人と座を一緒にしてもらえないかと頼む。

 女将は年寄りの隠れ遊びで顔を見られたくないと言っていると渋るが、若旦那は今日の勘定は半々ということにするからと提案。女将からこれを聞いた二階の親旦那、始めはいやがっていたが勘定が半々ということで納得、全部向う持ちでも差支えないなんて、さすがケチぶりを発揮している。

 女将は若旦那を「仔狐」にして目隠しして二階へ上げる。さあ、若旦那の仔狐と親狐の乱舞、珍舞が始まった。その賑やかで陽気な事。

 「♪釣ろよ、釣ろよ、信太の森の、仔狐どんを釣ろよ ♪やっつく、やっつく、やっつくな ♪釣ろよ、釣ろよ、信太の森の、親旦那を釣ろよ、♪やっつく、やっつく、やっつくな・・・・・ウゥ、ウゥ、ゴッホ、ゴッホ・・・・ 」、さすが親旦那も長時間の「狐つり」で息切れし、二人は扇子をはずし対座した。

親旦那 「こ、これ、せがれやないか!」

若旦那 「あっ! あんた、お父っつぁん」

親旦那 「うむ〜、せがれか・・・・・必ず、博打はならんぞ」


      


葭町は、元吉原(吉原遊郭)の地。桂庵(口入れ屋)が多く『百川』・『引越しの夢』・『化け物使い』にも登場する。

高津の黒焼き屋は、『いもりの黒焼き』に記載。

万福寺は三津寺の西にあったが戦災で、西区南堀江1-14に移転した。

信太の森は、葛葉伝説の地で『天神山』に記載。



桂枝雀の『親子茶屋【YouTube】


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