★あらすじ 隠居の所へ短気で喧嘩っ早い八五郎が、「離縁状(三行半)を5.6本書いてくれ」と飛び込んでくる。「かかあとババアにやって、あとは壁に貼って置くという。隠居がよく聞くとババアは八五郎の母親のことだ。夫婦喧嘩で八五郎が女房を殴ったら仲裁に入り、女房の肩を持ったから蹴とばしたという。
呆れた隠居だが、説教でもしようものなら拳骨(げんこつ)の2.3つも飛んで来ようという相手だ。隠居は八五郎に長谷川町新道(じんみち)の煙草屋の裏の、心学の先生の紅羅坊名丸への手紙を持たせ、先生の話をよく聞いて来いと送り出す。
「やい、べらぼうに怠けるやつ出て来やがれ」と喧嘩腰でやって来た八五郎に驚いた紅羅坊先生だが、そこは名の知れた心学者少しも動ぜず、「孝行のしたい時分に親はなし」、「短気は損気」、「ならぬ堪忍するが堪忍」、「堪忍の袋を常に首に掛け、破れたら縫え、破れたら縫え」、「気に入らぬ風もあろうに柳かな」、「諦めが肝心、何事も天災と諦めれば腹も立たぬ」などと丁寧に諭すが、八五郎は混ぜっ返して面白がり一向通じない。
紅羅坊先生はそれでも根気よく、いくつもの例を上げて話し続ける。やっと、「何もない大きな原っぱで夕立にあったらどうする」で、八五郎はついに「天から降ってきた雨で、誰とも喧嘩しようもないから諦める」と降参だ。紅羅坊先生「そこだ、何事も天から降りかかったもの思えば諦めがつく。天の災(わざわい)と書いて天災(てんさい)と読む。何事も”天災”と諦めれば腹も立つまい」 やっと納得、得心した八五郎は、「今の話を誰かに聞かせましょう」と帰りかける。「茶も出さず、何のお構いもしないで済まん」と見送る紅羅坊先生に、八五郎「なに天が茶を入れねえ、天災と諦めればなんでもねえや」と、大きな進歩?だ。
長屋へ帰った八五郎は早速、女房に受け売り、付け焼刃の”天災”の話をするが、頓珍漢なことばかりで女房にはチンプンカンプンだ。女房は、「そんなことより、熊さんが女を引っ張り込んだ所に、先妻が怒鳴り込んできて大変な騒ぎだった」
八五郎、これを聞くや絶好のチャンス到来と熊五郎の家に乗り込む。やっと騒ぎが収まって一段落したところに、また騒ぎの火種が飛び込んで来たと案ずる面々を尻目に、八五郎は仕入れてきた”天災”を披露する。「奈良の神主 駿河の神主」、「神主の頭陀袋 破れたら縫え 破れたら縫え」、「気に入らぬ風もあろうに蛙(かわず)かな」・・・・支離滅裂にまくし立てる。
何を言っているのか訳が分からんという熊さんに、八さんは奥の手を出す。「先(せん)のかかあが怒鳴り込んできたと思うから腹もたつ。天が怒鳴り込んで来たと思えば腹も立たない。これすなわち”天災”だ」
熊さん 「なぁ-に、家(うち)へ来たのは先妻だ」
|