「縮みあがり」


 
あらすじ 堀の内のお祖師様へお参りに向かう途中の助さん新宿の女郎屋からちらりと顔をのぞかせた女がすっかり気に入ってしまった。

 お参りもそこそこに、お賽銭もけちって帰って、新宿の女郎屋でさっきの女を捜すが名前も店も分からないのでなかなか見つからない。やっとこの店だと見当がついて、

助さん 「ちょいと見染めた女があるんだ」

若い衆 「はいはい、かしこまりました。けれどもお名前の分からないのは困りましたねぇ。うちの妓(こ)はみんな粒よりですから・・・ちょっと色白の、面長の、三日月眉毛で目がぱっちり・・・」

助さん 「そうそう、鼻筋が通って、口元が可愛い・・・」

若い衆 「それならおやまさんでしょう・・・」ということで買った女が、さっき見た女とは似ても似つかぬ馬のように顔が長い女で助さんはがっくり。

おやま 「そんなにため息ばかりついておいでなさらないで、ご酒を召し上がれよ」

助さん 「酒なんて飲みたくねえや」、ふて腐れてへ行って向こうの廊下を見ると、さっきの女だ。

助さん 「やあ、見つけたぁ、見つけた!」と大騒ぎ。店に掛け合いに行くと、

若い衆 「あぁ、あの妓ですか。気がつきませんでしたねえ。三日ほど前に来た新妓さんなもんですから。・・・あの妓はお熊さんというんですよ・・・そうですか、ようござんす。ちょいと話をしましてお見立て替えということにいたしましょう」で、助さんは大喜びしてわくわくしながら待っていると、廊下に草履の音がパタパタとして、部屋の前でピタッと止った。

 部屋に入って斜めに座ったお熊さんに、
助さん 「・・・お熊さん、間夫は勤めの憂さ晴らしなんて、いやなお客の勤めも、たまにはちょっと口直しをすれば、それで幾分か気が晴れるというもの。・・・人助けと思って笑い顔のひとつもお見せになってくださいまし・・・もし、お熊さん・・・こっちを向いてくださいよ・・・」、惚れた弱みかいつになく下出に出ている。

 やっと助さんのほうを向いて、
お熊 「よさねえかってば、このふと(人)は、ほんのうそれどこの事んではねえがのんす。おらぁ、こっ恥ずかしいでのんす」

助さん 「えぇ!のんすとは驚いたね・・・もしもしお熊さん、いったいお前さんの郷里(くに)はどこでのんす?」

お熊 「おらが郷里かね。越後の小千谷だがのんす」

助さん 「小千谷か、それであたしが縮みあがった」





        

666(2018・2月)




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